日本は、実は資源大国? --- 宇和 吾郎

アゴラ

アベノミクスの登場により、強い日本を目指した国家プロジェクトが目白押しである。経済分野では、企業減税や規制緩和を軸とした成長戦略であり、TPPなど環太平洋の経済連携を強める中で農業の競争力強化を図ろうとしている。いまや日本のいたるところで、失われた20年を取り戻そうと、日本の復活が叫ばれている。

だが、この一連の動きをよくみると、かつて日本が高度成長をひた走りにしていた時と同じ路線、つまり「日本は資源がないのだから、海外から石油などの資源を輸入して、それを加工して輸出しなければ生きてゆけない」という貿易立国論である。

でも、ちょっと待って欲しい。今までの延長線上で、日本は資源小国ととらえていいのだろうか?


■資源小国の幻想

「日本は、いたるところ森林で、こんなに緑豊かな国だったのか。」
最近は、尖閣諸島の問題で、その数は減っているようだが、日本を訪れる中国人が、日本上空にきて、機内の窓から下を眺めると、一様に驚きの声をあげるという。

以前、中国政府は国土の実態調査を発表した。それによると、土壌浸食により表土が流出した土地は国土の38%(なんと日本全土の10倍)となり、砂漠化した土地は国土の27%にも達したという。すさまじい国土の荒廃が進んでいることがわかる。最近PM2.5の大気汚染問題などをみていると、全土での急速な工業化により、土地の荒廃は一段と進んでいると、推測できる。

これに対して日本の森林面積は、国土の66%にも達している。しかし日本自体がこの豊かな緑を十分に活用しているかというと、残念ながら答えはNOだ。戦後に植林された約1,000万ヘクタールの人工林が、50年を過ぎ、伐採の時期になっているにもかかわらず、林業の衰退、それに伴う林業関係者の人手不足から全国各地で放置されたままになっている。その結果、せっかく木材になる樹木が立ち枯れたりしている。

■決め手は木質バイオマス発電

こうした中、放置されている山林を貴重な資源として生き返らせようという動きが日本各地でひろがりつつある。

そのひとつが、「里山資本主義」(藻谷浩介・NHK広島取材班 共著)の本のなかで紹介されている岡山県真庭市にある銘建工業による取り組みである。同社は従業員200人、年間25万㎥の木材を加工しているが、1997年にその過程で出てくる「木くず」を原料にした「木質バイオ発電」を始めた。発電所は24時間フル稼働で、出力は一時間に2,000KWと、一般家庭の2,000世帯に相当する。そして、もう一つのイノベーションが、年間4万トンの使いきれない「かんなくず」を、直径6~8mm、長さ2cmの円筒状のペレットとし、燃料としても販売したことだ。

この町おこしに、真庭市も市役所内に「バイオマス政策課」をつくり、全面的にバックアップしている。具体的には、小学校や役場にペレットボイラーを導入し、それに対して補助金を出している。

この結果、同市では全市で消費するエネルギーのうち11%を木のエネルギーでまかなっている。ちなみに、日本全体では太陽光や風力を含めた自然エネルギーはわずか1%に過ぎない。この真庭市の挑戦がいかに先進的なのかがわかる。

そして、この動きを一歩進め、2013年2月に銘建工業、真庭市、地元の林業・製材業の9組合が共同出資して「真庭バイオマス発電株式会社」を設立した。2015年4月に稼働すると、出力は1万KWとなり、同市の世帯の半分をまかなえるという。

■世界最先端をいくオーストリア

一方で、海外に目を向けてみると、バイオマス発電で最先端をいっている国がある。オーストリアだ。

オーストリアは日本のマスコミにはあまり取り上げられないが、実は失業率は4%台とEU加盟国では最低、一人当たり名目GDP(国民総生産)は、5万ドル弱と世界11位で日本を上回り、EUでの優等生である。そして、そうした高いパフォーマンスを支えているのが、独自のエネルギー政策である。

10年前までこの国も、ガスや石油が主力エネルギーであったが、いまやエネルギー生産量の約30%を再生可能エネルギーが占め、そのうちバイオマスは3分の1の10%にまでなっている。

人口2万5,000人のレオーベンという町がある。ここに国内有数の製材メーカーのマイヤーメルンホフ社があり、そこでつくられたペレットは専用のタンクローリー車で個人宅まで運ばれる。そして、ホースでペレットを地下にある貯蔵庫に流し込み、それが自動的にボイラーに運ばれる仕組みになっている。

■バイオマスは国家戦略そのもの

オーストリアでは、日本と同じく地下資源に乏しく、石油は中東、天然ガスはロシアに依存していた。そして、ロシアがEUへの影響力を高めるために天然ガスを削減する動きに出るたびに、エネルギー危機に見舞われていた。

この不安定さから脱却するために、豊かな森林資源を活用し、エネルギーの安定供給を確保するとともに、国全体の安全を固めようとしたのだ。また、それを実現する力が同国にはあった。

■森林資源を守る「森林マイスター」

もちろんバイオマス発電に課題がないわけでない。その最大のものは、樹木の過度の伐採による山林の荒廃、つまりはげ山化の問題だろう。すでに、木材を輸出している東南アジア諸国や焼き畑農業のブラジルでは、急速に森林資源が失われている。だがオーストリアでは、これに対して解決策をもち、実績をあげている。それは「森林マイスター」の制度だ。森林マイスターは国が養成し、森林所有者の70%を占めている500ヘクタール以下の森林の管理を行う。

彼らは伐採できる地域を決め、一年間に伐採できる木材の量を定め、その販売先まで確保する。森林の持続可能性を維持するための知恵が現実化しているのだ。

■「自力エネルギー」で有事の備えを

翻って日本はどうか?中東に石油を依存し、そのほかの資源も海外に頼っている点では、オーストリアと事情は同じである。しかも、福島第一原発事故により、「脱原発」にせよ「ゼロ原発」にせよ、今後エネルギーは原子力に頼れない。

日本を取り巻く国際情勢は急変している。米国はシェールガス革命により、石油の輸入国から輸出国へ大転換をとげようとしている。その一方で、中国はその経済力と軍事力を後ろ盾に、日本を含めてアジアの国々へプレゼンスを高めている。

それに対して日本は失われた20年以降、政治の混乱が続き、経済にとどまらず、外交、農業などの分野で主要課題が先送りされてしまった。

だが、幸いなことに安倍政権の誕生により、久々に強いリーダーシップが発揮できる状況になってきた。

企業の成長力強化や農業再生も重要課題だが、太陽光や風力など「自力エネルギー」の拡充は、国家戦略上「有事の備え」としてそれらと同じくらい重要なテーマである。2014年度予算の政府案では、再生エネルギー関連にそれなりに資金を投じているが、バイオマス発電については、いまだ民間や地域の自発的な取り組みの域を出ていない。バイオマス発電についても優先順位をあげて、オーストリアのように国をあげてそのインフラ整備を早急に推進すべきだろう。

宇和 吾郎
ジャーナリスト


編集部より:この記事は「先見創意の会」2014年1月7日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。