本田圭佑がセリエAに行けた理由 --- 岩瀬 大輔

アゴラ

本田圭佑選手のACミラン入団会見を観た。英語で最後までQ&Aをやり遂げた姿は、世界で活躍するスーパースターにふさわしい姿でしたね。日本人としてとても誇らしかった。

さて、彼の小学校卒業文集は話題になったので、読んだ人は多いだろう。

ぼくは大人になったら、世界一のサッカー選手になりたいと言うよりなる。世界一になるには、世界一練習しないとダメだ。だから、今、ぼくはガンバッている。今はヘタだけれどガンバッて必ず世界一になる。そして、世界一になったら、大金持ちになって親孝行する。

Wカップで有名になって、ぼくは外国から呼ばれてヨーロッパのセリエAに入団します。そしてレギュラーになって10番で活躍します。一年間の給料は40億円はほしいです


ほとんどの人は、「へ~、小学生からこんなことを考えていたの、凄いなぁ」という感想だろう。私もそれは同じである。自分が6年生の頃、卒業文集に何を書いたか思い出すだけで恥ずかしい。イギリスから帰国した直後だったので、ラグビー選手になりたいと書いていたような気がする……(汗)
一方で、大人になった我々にとっても大切なメッセージがここに隠されている。

このように大きな夢を描いたところで、誰もがそれを実現できるわけではない。

しかし、本田選手ほどの才能の持ち主であっても、このような明確な目標を持っていなければ、セリエAに行くことはなかったのではないか。

つまり、人生において自分の能力をめいっぱい引き出せば達成しうることも、それを明確な目標として掲げていない限り、実現できないのではない、ということだ。

ソフトバンクの孫正義氏は、ソフトバンクの黎明期に、2人のアルバイトを前にして次のように語ったそうだ。

ソフトバンクは、30年後には豆腐屋さんのように、売上の単位を1兆(丁)、2兆(丁)と数えるぞ。

気が付いたら約30年たって、目標を実現されています。

アマゾンのジェフ・ベゾスも、手元に新著がないから分からないが、きっと創業時の黎明期に「俺たちは地球上のすべての商品を取り扱う、everything storeになるぞ!」と掲げていたのだろう。皆には「は?」と訝しがられながらも。

GMO 熊谷社長は、21歳のときに「35歳で会社を上場させる」と手帳に書いて、35歳1カ月で上場させたという。これも凄い。遅ればせながら、ご著書の「一冊の手帳で夢は必ずかなう」を読ませて頂きました。

このような「目標を明確に立てよう」というのは言い古されたことだ。しかし、それを信じて、実行している人はいない。自分も含めて。そして、何かを成し遂げている人が皆、大きな夢を明確に立てていた様を見ると、やっぱりそれはとても大切なことであると気がつく。

人類は飛行機の改良をした結果、月に行ったわけではない。月に行く、しかも1960年終わりまで、という明確な目標を持って、それを実現したのだ。

「ビジョナリー・カンパニー」風に言えば、”big, hairy, audacious goal” ですな。この言葉、山岡洋一御大による邦訳は「困難で大胆な目標」となっているが、ニュアンスが伝わっていない気がする。だって、hairy、毛むくじゃらな熊さんのようなわさわさとした目標ですよ。私が訳すなら、「ありえないくらい無謀な目標」となろう。

今回、本田選手の記者会見を観て、初めて自分の中でストンと落ちた。「は?」と言われるくらいの大きな夢を、具体的に設定する。もちろん、それを宣言したからといって、必ず叶うというわけではない。しかし一つだけ確実なことがある。目標を設定しない限りは、それを実現することは絶対にないということだ。


編集部より:このブログは岩瀬大輔氏の「生命保険 立ち上げ日誌」2014年1月13日の記事を転載させていただきました。
オリジナル原稿を読みたい方は岩瀬氏の公式ブログをご覧ください。