4Kテレビで問われる日本のビジネス創造力

大西 宏

4Kテレビが激しく価格下落しはじめています。価格の急降下はまるで3Dテレビがそうであったかのようです。価格コムで見ると、東芝のREGZA 58Z8Xの58インチの4Kテレビは昨年6月の初値が489,162円でしたが、現在の最安値が269,613円で、わずか半年で44.9%もの値下がり率です。SONYの55インチの4KテレビBRAVIA KD-55X8500Aは昨年10月に発売391,300円からわずか3ヶ月で最安値が263,800円と32.6%も価格下落が起こっています。


価格コムの平均価格と最低価格の推移グラフを見ればその下落速度の速さは普通ではありません。

 間違いなく、4Kテレビの価格はもっと下落します。4Kテレビはコモディティ化への道をまっしぐらに突き進み、やがてはフルハイビジョンテレビと同価格程度に落ち、リプレイスされていくのでしょう。

しかもその動きを牽引するのは、日本でも韓国でも北米でもなく中国です。米調査会社のNPDディスプレイサーチによると、2013年の4Kテレビの全世界の出荷台数は190万台でしたが、このうち170万台が中国で売れたものです。また今年の予想出荷台数は1270万台ですが、中国向けが78%を占める見込みだとウォール・ストリート・ジャーナルが伝えています。

同記事によると、その中国での4Kテレビの平均価格は今年は973ドル程度と予測されています。つまり10万円を切ります。いくら中国製品とは違って、一般の放送も4K画質で見える機能があると言っても、この低価格化の影響は受けます。4Kテレビは、年内、また来年には国内価格も半額以下になり、いくら消費税があがってもそれを待って買ったほうが賢いということになります。

さらに市場が伸びれば伸びるほど、日本、韓国、中国の3カ国のメーカーの3つ巴の競争が激化します。中国メーカーにとっては、日本や韓国にキャッチアップする絶好のチャンスになってきます。市場も製品も中国が主導することになりかねません。

4Kテレビも今の発想で終わるなら未来はありません。売り手の論理、また「ものづくり」に偏った発想が暴走して行くつく先が血の海の地獄である事例がまた増えるだけでしょう。

焦点は4Kならではの価値を創造できるか

4Kテレビでビジネスチャンスを摘むのはSONYかもしれません。放送用機器やシステムのリプレイスが起こればSONYはこの分野でビジネスを伸ばせます。放送用機器はハードとシステムが一体化しているので参入障壁が比較的高く、SONYにとっては4K化は意味があります。

しかし4K周辺では生まれてくるビジネスチャンスはきっとそれだけではありません。ただ、確実に言えることは、それはテレビではないことです。

テレビはその基本価値そのものが成熟し、コモディティ化してしまっているので、4Kでいくら高細密化し、画質を向上させても、成長性を失ってしまった市場が再び活力を取る戻すことはありません。なぜなら高細密化して番組のコンテンツ価値があがる、つまり番組がさらに面白くなるという分野は極めて少ないからです。

鍵は新しい用途、新しい価値、新しい市場の創造力です。
 

それは4K技術が中心というよりは、別の技術やシステムと複合化したものになってきます。海外メーカーでは真似できないものと複合化する戦略になってきます。テレビなら、例えばインターネット技術と複合化させ、テレビや放送という概念を大きく変えるような新しい製品や仕組みです。

しかし残念なことに、テレビは総務省、放送局、家電メーカー連合体の「テレビ村」はこういったイノベーションには積極的ではありません。

これまでインターネット対応サービスではアクトビラで失敗し、また「もっとTV」でビデオ・オン・デマンドサービスを昨年開始していますが、これが「対応テレビ」でないと利用できないのです。本気でこのサービスを広げる気がないのでしょう。あるいは時代のスピード感についてきていないかです。これだけ「業界事情>消費者の利便性」を見せつけられると、もう話になりません。

ほんとうに成長戦略というのなら、テレビの創造破壊を日本で起こし、世界に広げるぐらいの構想を描いてみてはどうなんでしょうね。なぜテレビ業界や放送業界が変われないのかを紐解けばきっとブレークスルーする鍵も見つかるはずです。

これまで固定化されていたこういった業界の秩序や利益の構造を破壊する施策を実行し、ほんとうのイノベーションが起こってくることを促すのか、ただただ金融政策と公共事業だけでアベノミクスが終わってしまうのか、今年はアベノミクスにとっても正念場を迎えていると感じています。