ルー財務長官が1月16日に「替に過度に依存すれば長期的な成長はない」、日本の為替政策を「注視し続ける」と発言し、日本では大きな衝撃が走ったということで。
アメリカの言い分を考えてみました。
何はさておき、根本はテーパリングを踏まえたドル高抑制への掩護射撃なんでしょう。
ルー財務長官が2013年5月から為替に対し円安につながる政策をけん制し始めましたが、まさにFOMC声明文で資産買い入れの縮小に触れた時期と重なります。
日本が名指しされた背景には黒田バズーカ砲によるドル高・円安効果もあいまって、日本人による米国債投資が活発化する気配があったからかもしれません。実際、11月の対米証券投資でみると日本は米国債を120億ドル買い越し。米債保有高は中国とともに過去最大を更新しました。
ちなみに、対米証券投資は16日発表予定でしたよね。しかし当時、なぜか15日に「誤って」送信され中国やら日本の保有高が事前にウェブサイトに掲載されていたんです。
金利低下につながる米国債買いはありがたいものの、ドル高を招く諸刃の刃。
米国の歯痒さが感じられる気がいたします。
麻生財務相から、こんな親しげな挨拶を受ける方でもあります。
(出所 : AFP)
もうひとつ米国が配慮しなければいけないのが、米株高。
S&P500の構成銘柄で決算を発表した企業のうち、16日時点で48%が予想を上回っていました。
長期的平均の63%を大幅に下回っていたんです。
これまでの米経済の支えが資産効果であったことを踏まえると、米政府にとって株安は懸念材料。
ドル高によって利益や見通しに慎重さが増してしまえば、元も子もないんです。
逆に言うとあまり米国でルー発言を法報じないのは、あえてドル高の泣き所を自国内で突つかれたくないという配慮があるのでは、と勘ぐってしまいます。
例えば、IBMの決算をみると火を見るより明らかです。
「IBMが21日引け後に発表した10~12月期決算で、売上高は前年同期比5.5%減の277億ドルと市場予想の282億3000万ドルを下回った。7期連続で減収となる。なお為替の影響を除いたベースでは、3%減へ縮小する」
「国別では、中国が23%減と売上を押し下げたほか新興国も9%減となっており、ドル高が響いたかたちだ」
決算内容を受けてIBMは22日に3.3%安となり、ダウ平均を押し下げたことは言うまでもありません。
4月の消費税増税を控え追加緩和の地ならしを計るかもしれない日銀に、釘を刺したとの仮説も考えられるでしょう。
ルー長官といえば、2013年11月12日に訪日したときに「輸出依存を減らし内需を拡大させ、為替を政策ターゲットとしない」よう要請してましたが、あの時も日銀金融政策決定会合の約1週間前でしたね。同時に、消費税増税を決定した約1ヵ月後でした。
ともかくルー米財務長官は日本だけに厳しい口調を寄せているわけではないので、日米関係悪化の兆しと結論づけるのは早計かと。ケネディ大使のイルカ漁ツイッターも、何でそこなんだと突っ込みたくなる材料ですし。むしろ中間選挙を控え、国内的パフォーマンスに着手したのかもしれません。
16日のルー発言では、日本だけではなくユーロ圏、中国、韓国などに注文をつけていましたしね。米有力メディアも、アメリカこそ超低金利政策と3回に及ぶ量的緩和(QE)でドル安を招いた張本人というわけで「自分のことは棚に上げちゃって」と、皮肉を寄せていましたよ。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年1月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。