東京都知事選挙で、細川さんが「これから日本は人口がどんどん減るので、原発はやめて自然エネルギーにして、脱成長で心豊かな生き方をしよう」といっています。人口が減ったら成長は止まりますが、さらに「脱成長」というのは、もっと貧しくなろうということでしょうか。本当に成長はいらないのでしょうか?
細川さんのいうように、日本の人口はこれから急速に減ります。それだけでなく上の図のように高齢化も急速に進むので、小学生のみなさんが大人になるころは、働く人2人で老人1人を養うことになります。その分だけ税金や社会保険料が上がるので、可処分所得(手元に残るお金)が減ります。
このまま何もしないと、あと25年で都民の所得の半分が国や東京都に取られることになります。つまりみなさんの可処分所得は半分になるのです。こういうとき、細川さんのいうように原発をすべて廃炉にして「自然エネルギー」に替えたら、みなさんはおじいさんの世代ぐらい貧しくなるでしょう。
ドイツでも問題になっているように、原発をやめて太陽光発電などにしたら、電気代が大幅に上がります。いま1世帯あたり年間平均10万円ぐらいの電気代が、20万円とか30万円になるでしょう。ただでさえ所得の半分を税金で取られる人に、さらに電気代という税金がかかるわけです。
しかも電気代は所得に関係なく取られるので、細川さんのように25億円も資産のあるお金持ちには何の影響もありませんが、年収300万円の人が30万円の電気代を払うのは10%の負担です。つまり電気代は、所得の低い人ほど負担の重くなる逆進的な税金なのです。
細川さんは「腹七分目でいいじゃないか」といっていますが、何もしなくても可処分所得は半分になるのに、電気代の負担が増えたら、みなさんが大人になるころには、エアコンや自動車を買うことはむずかしくなるでしょう。みなさんの好きなケータイも使えなくなるかもしれない。そういうとき、どうやったら「心豊かな生き方」ができるんでしょうか?
さらに困るのは、みんなが平等に貧しくなるのではなく、格差が広がることです。今でも金融資産の60%以上は60歳以上がもっていますが、これから老人がもらうお金は彼らが払った保険料より何倍も多い。他方、よい子のみなさんがもらえる年金は税金や保険料より少なくなり、その差は一生を通じて1億円近い。つまり老人はますますお金持ちになり、若者はますます貧しくなるのです。
76歳の細川さんが「成長をやめよう」という気持ちはよくわかります。これから若者が貧しくなるのは、彼にとってはどうでもいいことでしょう。エネルギーが足りなくても、のんびり焼き物でも焼いて暮らせばいいじゃないか――というのは、彼のようなお金持ちにしかできない暮らしなのです。
お金持ちに貧乏人の気持ちがわからないのはしょうがありませんが、若い世代がこれから貧しくなる時代に、「原発ゼロ」でますます貧しくしようというのは、老人の身勝手です。でも悲しいことに小学生のみなさんには選挙権がないので、せめて子供をもつ親は細川さん以外の人に投票しましょう。