1. 外国人労働者の受け入れ拡大を検討する政府
安倍政権は外国人労働者の受け入れを拡大する方針を固めた。専門職だけでなく、従来は認めてこなかった単純労働者の受け入れもできるように規制緩和するという。
日本は島国だからか、外国人受け入れには拒否感が強い。数年前でも、インドネシアやフィリピンからの外国人看護師や介護士の受け入れを巡って大きな論争がおきた。
私自身、神奈川県大和市運営の国際交流フェスティバルで実行委員(メンバーは日本人数名と他は外国人市民)を務めたこともあり外国人問題には強い関心がある。改めて、外国人労働者受入の是非を考えてみたい。
結論を先に述べれば、受け入れは必須である。
2. なぜ外国人労働者の受け入れが必要か?
では、なぜ外国人労働者の受け入れが必要なのだろうか? 大きく2つある。
1つは、低賃金業重労働業界の人手不足に対応するためである。具体的には製造業の現場や、土木、建設、医療、福祉、ホテルや旅館といった業界である。最近では土木や建設の現場は若者が就職を敬遠する傾向にあるとの調査結果も報道された。
つまりこれらの業界は仕事先はあるのに、日本人がやりたがらなくて働き手が外国人しか見つからないのだ。また、外国人労働者も高度人材だけを受け入れて、単純労働者は受け入れるなという声もあるが、上記の理由によりそれでは人手不足は解消しないのである。
2つ目は、年々減少している生産年齢人口(15-64歳)問題を解決するためである。言うまでもなく日本は超少子高齢社会に突入している衰退国である。人口減少問題はすぐに手を打ってかつ長期的に取り組んでいかなければ国家の存続にも関わってしまう待ったなしの危機なのである。
3. 生産年齢人口のために必要な外国人受け入れの数
少子高齢社会と人口減少が同時に進んでいるという危機にある中で、仮に外国人労働者含む移民に頼るとしたら受け入れなくてはいけない人数はどの程度なのだろうか。下記の2つの試算を見る。
2000年に国連が公表したレポート(NEW REPORT ON REPLACEMENT MIGRATION ISSUED BY UN POPULATION DIVISION)によると、生産年齢人口(15-64歳)維持を目標とするシナリオだと1995-2050年の間に約3,350万人の移民受入が必要で、年間約60.9万人を受け入れ続けないといけないと当時試算している。総人口維持するためだけでも2050年までに約1,700万人、年間にして約38万人の受け入れが必要と試算している。
また、内閣府が2003年に発表した「平成15年経済財政白書」でのデータによると、生産年齢人口(15-64歳)を維持するためには年間約64万人の外国人・移民の受け入れが必要であると当時試算している。総人口を維持するためだけでも約34万人が必要とのことだ。
もちろん、どちらの試算も10年前のものではあるが、概ね生産年齢人口を維持するためには年間約60万人程度、総人口を維持するには年間30万人程度は最低でも必要ということが分かる。
現在のわが国の外国人登録者数は全ての年代合わせても207万人であるから、いずれにしても、かなり途方もない人数を受け入れなくてはいけない。
4. 外国人労働者受入で成功した国はあるか
とはいえ、外国人労働者受入にはリスクも存在する。それは「治安悪化」「社会保障費増大」「雇用バランスの崩れ」である。
長らく「多文化主義の優等生」とも言われ受け入れに寛容だったスウェーデンでもイスラム教徒移民の増加で治安が悪化し問題となった。さらに2013年12月末には移民の高い失業率と差別が原因で16000人規模の反移民デモが昨年末に起こった。
また、EUでは2014年1月からブルガリアとルーマニアの域内の就労規制が撤廃されたことにより、彼らの流入を警戒する英国やドイツは移民の福祉制限が議論されている。社会保障増大が懸念されるからである。
そしてアジアでは、「日本は外国人労働者を受け入れないから経済衰退した」と日本を批判して、受け入れを進めたシンガポールも、その後、職の奪い合いがおき9月には外国人労働者への規制強化を余儀無くされた。雇用バランスへの市民の不満が政府に向かったためである。
つまり、どの国も労働力の不足を補うために外国人労働者を受け入れたものの、未だ受け入れ政策が成功したと言える国はない。どの国でも移民を巡る摩擦が起こっている。
しかし失敗とも言い切れない。日本の最大の友好国である米国も移民問題に常に頭を悩ましているが、一方で世界各国から超一流の素質を持った外国人を集めることができているからだ。また、上述した国々でも確かに摩擦は生じているものの、外国人労働者達がその国の経済に果たした貢献が大きなものであったことは否定できないだろう。
重要なのは成功させるための試行錯誤である。
5. 外国人受け入れより女性やシニア層活用が先か?
外国人受け入れより女性やシニア層活用が先だという声がある。つまり、女性の社会進出促進と高齢者の就業促進である。
確かに安倍政権は過去のどの政権より上記2つに力を注いではいるが、仮に女性の社会進出促進で出生率が上がり子どもが増えたとしても、彼らが生産年齢人口になるのは20年後である。つまり、間に合わない。
よって、女性の社会進出促進と高齢者の就業促進、そして外国人労働者受け入れは3つ同時並行で進めることが必要なのである。
東猴 史紘
元国会議員秘書
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