日経平均が年明けから下がり続けている。1990年1月を思い出すが、あのころは誰も「バブル崩壊」だとは思っていなかった。まだ私は「地価上昇をいかに止めるか」という番組をやっていたが、不動産業者が「金利が上がってきたので商売がやりにくい」とこぼしていた。
ドル建て日経平均(赤)とダウ平均(青)Yahoo! Finance
客観的にみると、昨年末にも書いたように、これは当たり前の水準訂正だ。相場の主役である外人が、ロングのポジションを手じまい始めたのだろう。ドル建てで見ると、図のように日経平均が150ドルの天井に達すると利食いが始まる法則性がある。ダウ平均を基準にすると、あと2割ぐらい下がる余地がある。
他方、大手証券会社は年末にどう見ていただろうか。日経新聞によると「主要証券のストラテジストなどの見通しをまとめたところ、日経平均株価は1万8000~2万円まで上昇するとの予想が相次いだ」そうである。各社の予想は次の表の通りだが、相場はもっとも弱気の三菱UFJモルガンスタンレーの安値(4~6月に13500円)より急速に下がっている。
株式トレーダーなんてこんなものだ。彼らは「みんなが上がると思っているから上がるだろう」と思っているだけなので、みんなが下がると思ったら下がる。合理的な理由は何もない。株は値動きが大きく、投資家に素人(noise trader)が多いため、データより「空気」で買う傾向が強いのだ。
他方、債券トレーダーは値動きが小さいのでプロが多く、取引量が大きいので慎重だ。「みんなが買うから買う」とか「アベノミクスをはやして買う」ということはない。彼らは実体経済のデータに見合った水準で取引する。どっちがいい悪いということはなく、それぞれ市場の特性に合わせて行動しているのだ。
この違いは、政治家と官僚に似ている。政治家は何が正しいかではなく、「有権者が何が正しいと思うか」に合わせて行動しなければならない。ケインズがのべたように、こういう再帰的な「美人投票」には正解がない。「都知事が原発を止める」というナンセンスな政策でも、多くの人がそれを信じるなら政治家はそれを唱えることが合理的だ。
しかし経済政策を株式トレーダーのように運用すると、大損する結果になる。いったん決めた政策は「損切り」できないからだ。「アベノミクス」は経済政策をギャンブルにしてしまった。去年までその賭けは勝ったようにみえたが、相場は反転した。
貿易赤字は11兆円を超え、遠からず経常収支も赤字になるだろう。「円安で景気がよくなる」という素人トレーダーの思い込みが反証されたので、もう好材料は何も残っていない。消費税の引き上げで、さらに悪化するだけだ。