韓国外交官の「2つの質問」 --- 長谷川 良

アゴラ

知人の韓国外交官と久しぶりに昼食を共にしながら、朝鮮半島の政情などについて語り合った。彼は「君も知っているだろうが、どう考える」と聞いてきた。質問してきた問題は2つ、一つは北朝鮮の対韓宥和攻勢の狙いと、ベトナムで先月実施された日朝接触の今後の行方だ。韓国外交関係者は目下、2つの問題の分析に取り組んでいる。


そこで、2つの問題を整理してみた。

 A・北側の対韓宥和攻勢について。

北朝鮮労働党機関紙「労働新聞」は1月15日、「南北の対決状態解消に向け、韓国当局は政策転換の道を進むべきだ」と主張。その翌日、同国国防委員会は「重大提案」を表明し、「旧正月を迎える先月30日を機に互いに対する中傷を全面中止するように」と呼び掛けた。それに先立ち、「北朝鮮軍は昨年12月から黄海の白ニョン島や延坪島に向け韓国を中傷するビラを散布していたが、1月半ば以降は散布を一時中止した」(聯合ニュース)。

その後も北の対韓宥和攻勢は続く。①労働新聞は先月27日、南北関係を改善する責任は韓国だけでなく北朝鮮にもあると言及。②北は南北離散家族の再会行事を提案(韓国側は2月17~22日に行うことを提案したが、北朝鮮はまだ回答していない)。

 B・日朝接触問題について。

日本外務省の伊原純一アジア大洋州局長は先月25~26日、ベトナムの首都ハノイで北高官と極秘接触していたことが判明した。日朝接触は第2次安倍政権発足後初だ。日本人拉致者の帰国問題と「過去の清算」問題などが話されたと推測されている。

次は、当方が答えた内容だ。

Aについて、考えられる北の狙いは「2月末から予定されている韓米合同軍事演習の中止」だが、北当局は米韓両国が停止しないことを熟知している。だから、北側は宥和政策を展開し、対外平和アピールする一方、米韓の拒否を受けて対韓へ限定された奇襲攻撃を準備している可能性もある。その際の言訳は「わが国は米韓両国に軍事演習の停止を要求し、友好政策を取ってきたが、拒否された」というものだ。北の宥和政策は拒否されることを知った上での政治的ジェスチャーだ、という推測だ。

対韓宥和攻勢を進める一方、北側は北西部・東倉里のミサイル発射場の改良工事を進め、長距離ロケットや移動式弾道ミサイルの発射実験を準備中だ。また、寧辺核施設で原子炉を再稼動し、ウラン濃縮施設を拡張している(聯合ニュース)。

Bについて、韓国は反日攻勢で一定の成果を上げているが、日本の対北接触問題では手を出せないから、イライラしてきた。

韓国が最も恐れるシナリオは、日朝両国が日本人拉致者の全員帰国と過去の清算で合意することだ。それは日本から巨額の賠償金が北側に支払われることを意味し、韓国側の対北経済カードは無力化される。

韓国は米国と連携して、日朝合意を阻止しようとするだろうが、安倍政権が政権を挙げて日朝正常化に乗り出せば、それを阻止できる手段がない。拉致問題は人道問題であるから、その解決を阻止することはできない。

以上、当方の考えを述べた。知人の外交官は興味深そうに聞きながら、「そうかもしれないね」と相槌を打った。特に、Bの問題について、ソウルは日本の出方を慎重に分析していることを示唆した。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年2月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。