ロビーイング2.0のすすめ(その4)

城所 岩生

(その3)で、日米が主導した模倣品・海賊版拡散防止条約(ACTA)は、31カ国が署名したにもかかわらず、ヨーロッパが一転して批准に反対したため、批准国はいまだに日本だけで、成立すら危ぶまれていると紹介した。今回は反対運動の音頭をとった海賊党について紹介する。


なぜ海賊党と名づけたか?
違法コピーを意味する海賊版から党名をとった理由について、発祥の地、スウェーデンの海賊党創設者、リカード・ファルクビンジ氏は以下のように説明する。

99年にファイル共有ソフト ナップスターがスウェーデンにも上陸したため、コンテンツ業界は01年にアンチ海賊版庁(The Anti-Piracy Bureau)を設立するようロビー活動した。これに対抗するため、アーチストや音楽家が03年に海賊版庁(The Piracy Bureau)とよばれるシンクタンクを設立した。アンチ海賊版庁という呼称が後進的であるという印象を与えることによって、自分達の進歩性を強調しようとシンクタンクの名称を海賊版庁とした。

05年にスウェーデンの著作権法が強化されたため国民的議論が巻き起こった。著作権問題を政治問題化する好機到来と思って、06年に海賊党を設立した。03年の海賊版庁設立によって著作権政策が出来上がっていたので、法改正時の国民的議論によって、結党の機が熟したと判定、海賊の名前を冠した新党を設立した。

地方選挙で躍進を遂げながら国政選挙では議席を獲得できなかったドイツ海賊党
3年後の09年に欧州議会で2議席を獲得するなど順調な滑り出しを見せ、ヨーロッパ諸国にもまたまく間に伝搬した。中でも顕著だったのはドイツ。州を含む地方議会には約250人の議員を送り込み、党員の数も3万人を超えた。連邦でも地方でも全体の5%の得票がないと議席を獲得できないが、世論調査では全国的支持率もピーク時には7%に達していたため、国政参加も間近と思われた。ところが、13年9月の国政選挙では2.2%の得票率にとどまり、議席獲得には至らなかった。

理由はいくつかあげられるが、党首脳の間の意見の対立が公開されたことで、口論が絶えない党というイメージが植え付けられ、それを払拭できなかったことが大きい。オープンな議論を主張するため、党運営の議論もネットで公開していたが、そのオープンさが裏目に出たわけである。

現在、党員を国政に送り込んでいる国は、アイスランド(3人)、チェコ(1人)などまだ限られている。発祥国のスウェーデンでも5%要件を満たせずに国会議員は皆無。ただ、現在2人の欧州議会の海賊党議員はいずれもスウェーデン人。欧州議会、スウェーデン議会とも今年は選挙の年なので、そこでの議席増や議席獲得が海賊党にとっての次の試金石となる。

ACTAに対しては、ドイツ海賊党がフェイスブックを通じて、12年2月11日にデモを呼びかけたところ、ベルリンで1万人以上、ドイツ全土では、3万人(警察推定)~10万人(主催者発表)が参加した。ヨーロッパ各地でもデモが起きた。これが欧州議会での圧倒的多数による批准反対決議につながった((その3)参照)。

海賊党の著作権法改革案
海賊党は綱領として、市民権、直接民主主義、オープンガバメントを支持する 著作権法・特許法を見直す プライバシーを保護する ことなどをあげている。ACTAがこうした方針に逆行して、一言でいうとネットの自由を奪うことに反発したわけだが、著作権法についても興味深い改革を提言しているので、解説を加えながら紹介する。

1. 著作者人格権は尊重する 
主張:正当に評価すべきものは評価すべきである。
解説:党名からイメージする海賊行為を推奨しているわけではないことが、ここからもうかがえる。

2. 非商業目的での利用を認める 
主張:排他的権利は商業的利用に限るべき。私人の非商業的利用まで処罰の対象とする著作権法は時代に逆行している。
解説『著作権法がソーシャルメディアを殺す』のとおり、ローレンス・レッシグ ハーバード大教授ら米国の著作権法改革論者も異口同音に主張している改革である(第6章)。ヨーロッパではスイス、オランダが私的目的のダウンロードを合法化した(第1章)。しかし、日本はこうした世界の潮流に逆行して、違法ダウンロードを刑罰化した(同)。

3. 著作権保護期間は20年までとする 
主張:著者の死後70年までとしている著作権保護期間を出版後20年までに短縮する。

4. 5年後の登録を義務づける 
主張:出版後5年以降も権利を主張したい著作権者には登録を義務づける。著作物の再利用を妨げている孤児著作物問題の解決策である。
解説:特許は登録しないと権利が発生しないが、著作権は登録しないでも創作と同時に発生する。これが著作権者を探し出すのを困難にし、権利者不明の孤児著作物を生む原因となっている。著作物の再利用を妨げているこうした問題を解決するため、5年を超えて権利を主張する著作権者には登録を義務づけようとするもの。

3.4.とも保護期間の起算点を出版時とすることによって著者の死亡年の把握が難しいという問題の解決もはかろうとしている。

日本海賊党
2010年にフリュッセルに本部を置く、NPO海賊党インターナショナルが設立され、40カ国以上の海賊党が加盟している。日本から加盟している日本海賊党は、12年10月に東京都選挙管理委員会に政治団体設立届出を提出した政治団体で、「『政党』」として登録するためには、5人以上の国会議員の所属か、国政選挙での2%以上の得票が必要となります。一日も早く政党化することを目指しています」としている。党規約に掲げる主な政策も、以下のとおり、ヨーロッパの海賊党の政策を踏襲している(以上、HP 参照)。

1. ネット上の自由を守る
2. プライバシーの保護
3. 著作権、特許権の規制緩和
4. インターネットを利用した直接民主主義の実現

日本海賊党の党員ではないが、4. の「インターネットを利用した直接民主主義の実現」を先の都知事選で試みた候補者が現れたので、(その5)で紹介する。

城所岩生