国際環境経済研究所主席研究員、常葉大学経営学部教授
文藝春秋の新春特別号に衆議院議員の河野太郎氏(以下敬称略)が『「小泉脱原発宣言」を断固支持する』との寄稿を行っている。その前半部分はドイツの電力事情に関する説明だ。河野は13年の11月にドイツを訪問し、調査を行ったとあるが、述べられていることは事実関係を大きく歪めたストーリだ。
「ドイツは再エネの導入量が増え、電力輸出を行っているのでフランスの原発からの電力に依存していない、あるいはドイツの再エネからの電力を近隣諸国が競って購入している」と河野は主張している。
この主張は、需要に合わせて発電することが出来ない太陽光、風力発電の現状を無視し事実関係を大きく曲解している。嘘に近いと言ってもいい。どう間違っているのかはWedge/Infinityの連載での記事「河野太郎と朝日新聞–不正確な脱原発論の共通点」の連載で取り上げたので、お読み戴ければと思う。
河野の主張の後半には、電力料金の産業に与える影響についての話が出てくる。河野の主張として「電力料金が製造業に与える影響は小さい。例えば、自動車産業では電気料金がコストに占める割合は1%に満たない。人件費上昇の方が企業に与える影響ははるかに大きい」が出てくる。この主張も正しくない。
まず、重要なのは、値上がり額の絶対額の影響だ。コストの1%以下とあるが、値上がり額はいくらだろうか、また利益額に対しては、どのような影響を与えるのだろうか。国民経済計算によると2012年の製造業の産出額は約284兆円だ。企業が負担する額も含め雇用者報酬、即ち人件費は約49兆円だ。製造業の今の電気料金負担額は2011年の工業統計調査より推測すると4兆円弱だろう。確かに産出額に占める電気料金の比率は人件費との比較では小さい。
しかし、上昇の比率は人件費と電気料金では大きく違う。今議論されている人件費の上昇率は1%、せいぜい数パーセントの議論だろう。電気料金は原発の停止により、大きく上昇している。その上昇率は10%を超えている。上昇額でいえば、ともに数千億円だが、その影響の度合いは、企業収益とは関係がなく負担を避けらない電気料金のほうが大きい。
さらに、コストに占める比率が1%だから影響が少ないとの主張は間違いだ。法人企業統計によると2012年度の製造業の経常利益額は15兆7000億円だ。電気料金が数千億円上昇すれば、利益額に与える影響は極めて大きい。原発を停止し、電気料金が上昇していても、産業界への影響は少ないと主張するために、数字を正確に説明しないのは不誠実だ。 数字に基づき原発停止の影響を分析し、経済合理性の観点から何が望ましいか冷静に考えるべきだ。脱原発を主張するためであれば、事実関係を曲げて伝えても許されると考えている人がいるのであれば、それは許されることではない。