科学としてのベンチャー投資

森本 紀行

事業構想においては、起業家の属人性が大きい。しかし、どんなに優れた起業家でも、単独では、事業構想の実現はできない。起業家を支える実務的人材は不可欠である。


大企業のように既に事業基盤が確立している企業においては、この手の実務人材は豊富である。豊富すぎて過剰なのかもしれない。ところが、起業したての会社では、逆に、このような実務人材が不足する。

起業の成功確率を規定するのは、事業構想の良し悪しという要素と、事業構想を実現する実務的基盤の強弱という要素との二つであろう。実は、後者の要素は、単なる成功確率の問題ではなくて、持続的成長軌道へ乗るかどうかの確率に決定的に影響する。ベンチャー投資には、成功確率と成長確率の二つのリスクがあるのである。

とりあえず起業できても、その後、成長もせずに、かろうじて存続しているだけの状態にある企業、いわゆるリビングデッドは、たくさんある。これでは、ベンチャー投資としては、全く意味をなさない。では、大企業の中での起業はどうだ。いわゆる社内ベンチャーである。これも難しかろう。既存の事業を否定するような本質的に新しい事業構想は生まれ得ないし、実行もし得ないからである。

そこで、中間の第三の道である。大企業の外で生まれる大きな事業構想と、大企業並みの組織基盤に替わる外部からの経営支援とを統合すればいい。本来のベンキャーキャピタルは、単なる資金の供給ではなく、この後のほうの通常はハンズオンと呼ばれる機能にこそ、社会的存在意義があるのである。

さて、事業構想評価というのは、技術的には難しい。科学としてのベンチャー投資は、素人の思い付きに投資することではないのだから、難しいのは当然である。事業構想は、起業家の具体的な経験・知識・技術・先見的知見に裏付けられた、科学的に評価できるものでなくてはならない。

事業構想を評価する客観的な基準がなければならない。そこに、ベンチャーキャピタル各社の経験知の集積に基づく固有のノウハウがあるはずだ。少なくとも、建前としては、そうであるはずだ。ところが、いかに科学に徹しても、完全な評価などあり得ない。だから分散投資するのである。

しかし、わからないから分散するというだけでは、科学としてのベンチャー投資にはならない。しかも、多数の投資先をもてば、十分なハンズオンもできない。さてさて、日本のベンチャーキャピタル、投資の科学はあるか、ハンズオンの社会的機能を果たせているか。

森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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