戦略特区は「正しい」か --- 岡本 裕明

アゴラ

戦略特区の地域が3月下旬に発表になるようです。読売新聞にはかなり確証をもった書き方で東京23区、川崎、横浜の一部、大阪、京都、神戸の一部、更に福岡や新潟が加わり、名古屋は今回は見送られると「みられている」ようです。また日経新聞によると「首都圏では東京都を中心に広域特区をつくる。容積率の緩和を通じて都市部の高層マンションの整備を促し、職住近接の環境を整備する。公立学校運営を民間に開放し、グローバル人材の育成などを目指す」とあります。


戦略特区構想そのものは「多くの企業やヒト、モノ、カネなどを国内外から呼び込み、国際的なビジネス環境を整備する意図」(新語時事用語辞典)とあり、インターナショナルな街を想定しているのでしょう。ただ、日経の記事の文面をそのままとればもっとドメスティックな戦略のようにも聞こえます。

日本では以前から東京一極集中が折に触れて問題視され、分散化の必要性が叫ばれてきました。首都機能移転構想は古くは1960年の富士山への移転案からスタートし、バブル経済時や震災発生時に蒸し返すように議論されてきたのですが、結果として何も起きていないというのが現状であります。

考えてみれば東日本大震災に原発問題という事実を踏まえた際に首都機能移転問題があまり盛り上がらなかったのは例外的だったのかもしれません。結局のところ、日本全国安全なところがない、ということなのか、原発問題でそれどころではなかったということなのかもしれません。

今回の戦略特区構想は明らかに首都機能移転構想とほぼ180度違う方向の政策であります。経済特区に選ばれたところでは今後、不動産開発が一気に進み、域内の不動産価格が暴騰するシナリオはほぼ読み込めます。不動産開発会社は容積率の緩和により多少不動産価格が高くともよりたくさんの収益につながる不動産を作ればしめたものなのです。

それは日経新聞にある「職住接近」とも言えるのですが、むしろ「人口集積地域」と称した方がすっきりする気がします。ただ、将来の地震や地方都市の疲弊化が取りざたされている中、どこか腑に落ちない気がするのです。多分、戦略特区構想が外国企業の誘致と外国人向け住宅やライフサポート整備というもっと単純なところからスタートしたのが様々な議論の中でその居所を変えてきたということではないかと思います。

では、日本が戦略特区候補地を通じて本当に人口集積都市を目指すことが正しいのか、これは都市計画という観点からは素直にYESといえない気がします。大都市、ニューヨークでもトロントでも街中のコンドミニアムに住む人はリタイア層を含む子供を持たない人たちであります。一般的な家族持ちは郊外の緑があって環境よい住宅地に住むものなのです。だから、大都市の人たちは東京の人たちと同様、長い時間、電車に揺られて通勤しているのです。それはたかがバンクーバーぐらいの中都市でもダウンタウンのコンドミニアムに子供がいないという事実から容易に察することができるのです。

非常に逆説的にいえば職住接近を目指せば確かに女性の社会進出にはプラスサイドなのですが、少子化対策には逆効果になるということでしょうか?

但し、戦略特区構想のより具体的な内容が伝わってこない今、これ以上の推測は止めなくてはいけません。また、そんな特区にできるマンションは億の値札が付く一般庶民や子持ちの家庭には無縁の話なのだろうと思いますので取り越し苦労であろうことも推測しております。

ただ、戦略特区が結果として一極集中をさらに加速する結果となり、ひいては災害被害の分散化という観点からは逆効果になることは大いに気にしておいた方がよさそうです。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月7日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。