なぜ『nature』は「STAP細胞」論文を掲載したか

アゴラ編集部

科学雑誌『nature』から何度も突き返され、従来の科学の常識を「愚弄している」とまで罵倒された「STAP細胞」が窮地に立っています。『nature』掲載の論文に対し、画像などのデータに不自然なものがあると指摘され、多くの研究者が追試しても再現性がない、と疑惑の目が注がれている。論文の「捏造」説まで出て、マスメディアをはじめ、ネット上でも「賛美」から急転直下「バッシング」されるまでになっています。論文筆頭筆者の小保方晴子氏が「雲隠れ」する中、所属先の理化学研究所も内部調査と検証を続けているようです。


一方、共同研究者で論文にも名を連ねる山梨大学の若山照彦教授は、小保方氏を含む2本の論文で合計14人いる共同執筆者らに論文の取り下げと再検証を呼びかけています。当初、研究の精査にはもっと時間が欲しい、と言っていた若山教授が、論文の撤回というかなり後ろ向きの姿勢に変化したのは、自分で論文を調べてみると「信じられないほど多くのデータの間違い」があったことがわかったかららしい。若山教授が「STAP細胞」理論の前提としていた画像データにさえ、過去のものからのコピーが疑われ、それに気づいたのが大きな理由のようです。

しかし「STAP細胞」研究や理論が、まったくの「デタラメ」だったかどうかを即断するのはまだ早いと思います。既存の概念を超越したまったく新しい研究技術は、批判にさらされてブラッシュアップし、多くの研究者らによって不備が補完され、少しずつ完全なものに仕上がっていく。もちろん、今回の論文のように多くのケアレスミスとも言えない間違いや「捏造」とまで疑われるデータがあれば、意図的で悪意ある作為、と言われても仕方ないかもしれません。しかし、ほ乳類の細胞でも「外的なストレス」を受ければ幹細胞的な機能を獲得する、普通の細胞は高いポテンシャルを持つ、という発想や仮説は高く評価されてもいいでしょう。

小保方氏が博士号を取得したのは2011年です。理化学研究所の研究員になったのも同時期。これほど若く業績もほとんどない研究者をなぜ理研がユニットリーダーにしたのか、という点も不可解なんだが、理研の内部にも苛烈な「生存競争」や「権力闘争」のような派閥争いがあるのかもしれません。理研という組織自体、名前はよく知られているものの、内部組織については「ブラックボックス」のような部分もあります。理研に今回の騒動の説明責任があるのは間違いありません。

「STAP細胞」がこれだけ注目された理由は『nature』に掲載された、ということが無視できないでしょう。日本のマスメディアはなぜか『nature』を金科玉条のように扱っているんだが、同誌に掲載された論文の半分はのちの検証で間違いだったことが判明するそうです。もちろん『nature』では専門家らに論文を査読させ、ある程度の裏付けを取ってから掲載します。しかし、それも完全ではあり得ない。これまで世界中に出ている全ての論文や画像データに目を通し、それらを正確に記憶している査読者などいません。

遺伝子工学を含めた生理学の分野は、多額の利益を生み出すため、研究者や研究機関は厳しい競争にさらされています。論文の盗用や剽窃はもちろん、捏造でさえ日常茶飯事と言われている。ある仮説に基づき、研究理論を演繹的に構築していく場合、反証が出てきて否定されることはいくらでもあります。研究開発は一種の「戦争」になり、勝つか負けるか、という過酷な環境の中で、今回の論文のようなものが、スルッと『nature』に掲載されてしまうこともある。

同論文を『nature』は何度も突き返したそうです。そうした過程で『nature』にとって具合のいいデータばかりが残るようになり『nature』の審査を通ることが自己目的化し、さらに、成果が出た、ということで論文査読を通過してしてしまった。掲載に至った背景は、内部調査を継続中の『nature』からまだ発表はないんだが、こうしたことが起きていた可能性が高い。

確かに『nature』はしっかりした権威のある雑誌です。科学理論について、ほかに信頼性の高い雑誌は『Science』か専門性の高い学会誌くらいでしょう。しかし、マスメディアも含めた我々は「ノーベル賞礼讃」と同様、もう「『nature』信奉」もやめたらどうかと思います。いずれにせよ、研究者らの「ミス」や「疑惑」は明確にし、糾弾すべきことはなされなければなりません。しかし「STAP細胞」の理論や研究を、このまま「闇に葬ってしまう」のはもったいない、と思います。

toshi_tomieのブログ
世紀の成果のSTAP論文、共著者が撤回を提案。分子生物学会「多くの作為的な改変は、単純なミスである可能性を遙かに超えている」


Asian football chief says Qatar 2022 criticism ‘artificial’
arabian BUSINESS.com
2022年のサッカーW杯は、カタールで開かれます。英国の『ガーディアン』が、同大会の施設建設現場でネパールの出稼ぎ労働者が2013年だけで185人も死んでいる、と報じて話題になりました。この数字、2年間では382人になるらしい。アムネスティもこれを問題視し、外国からの労働者が強制労働にも似た環境で働かされている、と批判。アジアサッカー連盟のサルマン会長は、こうした批判が「人工的に作られたモノで」あり「度を超している」と返しているようです。その前には東京五輪もあるんだが、あっと言う間に2022年なんてきちゃうんでしょう。

ソニーとパナソニック、次世代光ディスク規格Archival Discを策定。業務用の長期保存向け
engadget 日本版
2015年の夏頃に1枚300GBのものを製品化し、その後は1枚500GB、さらに1TBへと容量を増加させていくそうです。Blu-rayの次世代メディア、というわけ。ただし、業務用ということで、一般ユーザーに恩恵はなさそうです。テレビのほうは4Kとか8Kとか、大容量高密度かしてるわけで、それを保存したりやりとりできるメディアとしての業務用なんでしょう。しかし、クラウドと通信速度の進化のほうが早いかもしれません。

McDonald’s Might Start Copying Chipotle’s Strategy
BUSINESS INSIDER
「チポトレ(chipotle)」というのは、本来は唐辛子を燻製にした香辛料のことです。独特の風味があり、米国人が好きなファストフード系の食べ物とよく合う。で、この香辛料をそのまま名前につけた「チポトレ」という1993年にできた直営のファストフードチェーンがあって人気らしい。オーガニックを売り物にし、食材の鮮度をイメージ化させて成功しているそうです。で、この記事では米国のマクドナルドがチポトレの戦略を真似するかも、と書いている。ご多分に漏れず米国のマクドナルドも苦戦中。客離れに歯止めがかからず大変です。そのため、客が自分でハンバーガーを「カスタマイズ」できるサービスを南カリフォルニアで実験しているらしい。また、チポトレのようなオーガニック系の高品質食材を使うことも考えている、というわけ。ジャンクなファストフードはもう古いんでしょう。いずれにせよ、マクドナルドの迷走は続く。

Study suggests more than two hours of homework a night may be counterproductive
PHYS.ORG
夜に2時間以上、勉強すると逆効果かも、というスタンフォード大学の研究を紹介している記事です。あくまで「米国の大学生」についての言及。日本の大学生に当てはまらないかもしれない。夜に2時間以上も勉強する大学生がいたら、そっちのほうが貴重と言えます。


アゴラ編集部:石田 雅彦