円の高低はアメリカ経済次第 --- 岡本 裕明

アゴラ

最近為替の関係の記事や寄稿を読んでいると「円高」を予想する向きがぽつぽつ増えてきた気がします。90円ぐらいに向かうという声もでているのですが、為替はいったいどこに向かっていくのでしょうか?

円が2013年1年を通じて105円まで円安になった理由はアベノミクスに伴う日銀の異次元の金融緩和ということになっています。事実、黒田日銀総裁のその発言で大きく為替が動いたことは否定のしようのない事実だと思います。ただ、一つ、よく考えなくてはいけないのは異次元の金融緩和だから円が安くなったのかということであります。


経済の教科書からすればむしろ異次元の金融緩和を通じたデフレ脱却がキーだったはずです。デフレ下では原則的には通貨の価値は締まってきますので円高を誘発する動きとなる一方、インフレの場合には通貨価値が下がると考えられます。ならば、ここは教科書通り、デフレ脱却期待から円が安くなったとすれば市場は最早、その点については既に達成し、食傷気味ということになります。更なる円安を求めるなら、ディスインフレの雲を抜け、明白なる安定した2%程度のインフレ体質に持って行く必要があります。ところが黒田日銀総裁は「今はその時期にない」と一蹴している状態です。黒田総裁は日銀としての期待インフレは順調に起きつつあるという自信を持っています。よって、仮に日銀の更なる金融緩和が行われるとしても7月以降ではないか、という意見も多くなっています。

ではディスインフレを日本は克服できるのかといえばこれは至難の業。アメリカですらなかなか達成できないのに人口減の日本において金融政策だけでどうこうなるものではありません。確かに一部企業でベアなるものも聞こえてきましたので嬉しい兆候ではありますが、賃金が末端まで消費税増税分を補ってまで十分に上がる状況になるとは思えないのです。

つまり、日本の政策期待からは円がこれ以上安くなるようなインフレを引き出すことは難しそうだ、ともいえるのです。

では為替の外部要因を考えてみましょう。こちらは地球上のあらゆるマネーとの比較になりますので政治、経済、外交力学まで含めた世の中の動きをじっくり観察しなくては読み切れません。例えばクリミア問題のような有事は原則、金と安全通貨と称される円が強いとされています。101円台に張り付く円とはまさにこれが主因であります。

次にアメリカ経済を読み解く必要があります。細かいことは放置し、とりあえず重要なのはアメリカ経済は本当に好調なのか、それとオバマ政権はレームダックとなるのかというこの二点に絞り込んでみると分かりやすいと思います。アメリカ経済は好調か、この点についてアメリカの多くの専門家は疑問視しつつあります。持続力がない、と。私は経済の匍匐前進と言い続けています。自動車販売もそろそろ陰りが出ると指摘しました。アメリカにとって重要なブラジルなど新興国経済が不振の中、アメリカだけ好景気に沸くというシナリオはないでしょう。

それとオバマ大統領の中間選挙に対する期待は微妙で仮に民主党が極めて良い結果を残せたとしてもオバマ人気は既に剥離していますからお内裏様になるかどうか、という感じかと思います。とすればアメリカの先行きに対する期待は低いですからドルが積極的に買われる状況にはならないこともありえるのです。

では中国が経済的に厳しい状況に追いやられたらどうなるでしょうか? アメリカの国債を売却するのでしょうか? この予想は実に難しいのですが、中国からの逃避マネーがどこに向かうか次第だと思います。円と日本の不動産などへの投資に資金が向かわないと言い切れるものではないのです。中国マネーもあるきっかけでうねりを見せますので日本への投資が安全だという認識が広がれば「とんでもマネー」が日本に入り込むことは可能性として否定しません。

以前円高基調だった時、円高論者のよんどころは購買力平価でした。この議論は今でも続きます。それはそれでもインフレ率は日本よりアメリカの方が上である、という落としどころでしょうか?

円が目先安くなったのはアメリカの金融量的緩和の縮小が金利差の「期待を生んだ」ということですが、これはアメリカが将来、金利を上げるという前提に立っています。が、上述の通りアメリカが必ずしも期待通りの景気回復を遂げるか、これは世界経済とのリンクの中で案外、フラッジャイル(fragile=壊れやすい)ような気がします。アメリカという巨大経済を引き揚げるためには金利をそう簡単に引き上げられないかもしれないとすれば円が高くなるバイアスは高くなりやすい、ということなのでしょう。

超長期の円ドルチャートでみると89年の120円と2012年の70円台を結ぶ下限と90年の160円と先日の105円を上限とするレンジでトレンド離脱ができないというのは結局日米間の為替のファンダメンタルズが変わったと言い切るほどラインをぶち抜く衝撃がないということになるのかもしれません。

もちろん為替は水物。とはいえ、落ち着くところに収まるというのもチャートが教えてくれるところであります。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年3月18日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。