原発は、今の規制で安全になるのか【言論アリーナ・要旨・下】

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)から続く。

活断層で原発を止めることのおかしさ

池田・具体的な問題で、活断層についてどのように思いますか。原子力規制委員会は、あちこちの原発で穴を掘って活断層を調査しています。日本原電の敦賀発電所2号機では活断層と断定して、「動かすべきではない」と事実上の死刑宣告をしてしまったわけです。


岡本・まず法律の事後適用という点で問題です。その規定が明確に決められていないのに、使えないとするのは、法治国家と言えないでしょう。

さらに敦賀2号機の場合は判定も間違っています。あれは一部の調査委員の意見を、委員会の結論にしてしまいました。原電側が外国の活断層研究の一流の専門家を集め、断層の調査をしましました。私はその調査に同行しました。外国の専門家は、すべてのデータをチェックして、活断層ではないと結論を出したのです。しかし規制委員会は見解を改めません。

規制委員会は思い込みを正当化する情報ばかりを見て、それ以外の情報を見ていないのです。間違いをただすことができないのです。これまで、原発周辺の地層を判定した人は、国内のトップクラスの地震学者でした。それを排除して2番手の専門家を集めて判断をしているのです。間違える可能性が高くなるでしょう。

米国でカリフォルニアのある原発の近くで、建設後に活断層が見つかったことがあります。その際にやったことは、さまざまな角度からの検証でした。断層が動くのか。動いた時にどのような影響があるのか。最悪の場合に、原子炉は耐えられるのかと調べました。その結果、リスクは少ないということで、原発は対策工事の上で、稼動させることにしました。

IAEA(国際原子力委員会)も、「活断層の評価はリスクで行うべき」としています。ところが日本は「あるからダメ」という乱暴な規制をしているのです。

池田・新しい規制委員会が作られたときに、これまでの審査官の裁量による規制を減らし、確率を考慮したリスク評価を導入すると言ってましたよね。確率で評価すると、原発の事故リスクは小さくなってしまうから、採用しないのでしょうか。

岡本・そうでしょう。12年4月に規制委員会はリスク評価をすることを決めました。「原子炉の破損を1万炉年分の1にする」とか、「放射性物質の漏洩を100万テラベクレル、これは小さな放射線量ですが、目標を掲げて事故の際にそこまでいく確率を100万分の1以下にする」などです。それなのに、13年夏に出てきた基準はそれを横において、感覚で規制をしているわけです。

活断層は確率で評価すると、原子炉への影響は、おそらく100万分の1以下と、とても小さくなってしまいます。確率で考えると止められないから、「あったらダメ」と乱暴なことをしているのでしょう。

石川・専門家が見て、危ない原発とは、どのようなものでしょうか。

岡本・ソフト面で言えることは、思想の面では常に努力する、改善する組織に運営される原発は、安全な原発です。そういう電力会社は日本にもいくつかあります。規制委員会の「後だしじゃんけん」のルールに何とかあわせようという、大変な状況になっています。その嵐の通り過ぎることを待つだけの電力会社の原発は危険です。どことは言いませんがね。

石川・では危ない規制政策というのはどのようなものでしょうか。

岡本・安全のために改善しない規制、事業者の改善をうながさない規制ですね。今の日本で行われていることです。事業者、原子力メーカー、学会などの専門家と話し合わなければならないのに、今の規制委員会はそれを排除して、自分たちで決めています。規制は役人の作文なんです。規制委員会の目的は、「規制すること」であって、「安全な原子炉」にすることではないように思えてしまうのです。

石川・刑事犯罪の規制の場合は、例えば暴力団など犯罪組織である規制対象の意見を聞かなくてもいいでしょう。しかし原発規制は経済法制であって、目的は「安全と経済の両立、事業の育成」です。ステークホルダーの意見を聞かないというのは、そうした目的から離れていってしまうでしょう。規制も効果のあるものではなくなりますね。

岡本・その通りで、全体が分かっている人が、規制作りに関わらなければなりません。それなのに規制委員会は専門家の意見も聞かず、また全体を分かっている人がいないわけです。

コミュニケーションが質を高めるのに…

池田・話をまとめると、制度設計に問題があるようです。事故の後で、原子力政策は政治のおもちゃにされてしまった面があります。民主党政権と当時の菅直人首相が「事故を起こした」と、原子力村バッシングをやって自分たちの政治的立場を良くしようとしたわけです。それに当時野党だった自民党が乗ってしまったのです。

自民党の提案で、経産省の下にあった原子力規制の既存の組織を潰して、「3条委員会」という独立性の高い組織にしました。塩崎恭久さんなどが中心になりました。民主党もそれに同調したのです。

アメリカのNRC(原子力規制委員会)もそうですが、独立性の高い委員会にすると、監督官庁もなく、権限も強くなる。ところが、それが独善になる場合があります。民主党は、規制庁を経産省から切り離し、2度と本省に戻るなとしているんです。これは役所の情報も使えないし、孤立するばかりです。

岡本・個人的には独立性が強いものが悪いとは思わないのです。中身の人次第ですね。アメリカもフランスも、職員の研修がしっかりしていて、それが組織の上の方に昇進していきます。

日本では、原子力規制庁に500人ぐらい職員がいます。そのうち50人ぐらいは現場をよく分かっています。若手は中心です。こうした人が行政の担い手になる組織をつくってほしいと思うのです。10年経てば、変わるかもしれません。今は過渡期ですが、だからこそ、行政が間違える可能性があると、慎重にやってほしいと思います。

池田・アメリカの組織の人事はリボルビングドアと言われ、政権が変わると幹部が変わり、官民の入れ替わりもあり、流動的です。日本は役所に入ると、たいていずっとそこで、固定的です。そして、今は役所相互とも、民間との情報のやり取りも、交流も遮断されています。情報が流れづらいのです。

さらに原子力ムラバッシングがあったので、電力会社など民間は意見を言うことを萎縮しています。バッシングが裏目に出て、ステークホルダーとのコミュニケーションが壊れているんですね。

岡本・その通りです。コミュニケーションが規制当局を育てるし、業者が一番、現場を知っているのですから。この人たちの意見を聞かなければ適切な規制ができるわけがありません。

石川・私は経産省に勤めていましたが、現場の話を聞かないと、効果のある規制が作れないんです。役所の机の前にいてもダメなんですよね。

岡本・今回の福島事故ではハードの面でも問題ですが、ソフトの面の問題も大きいと思うのです。東電にも、規制当局にも、「安全性を高めるために改善を続ける」という考えが足りなかったのです。「セーフティカルチャー」という言葉でまとめられますが、これが今、規制委員会、規制庁に欠けていると思います。

池田・福島のような大事故が起き、東電が事実上倒産してしまいました。この現実を見れば、事故を防ぐのは事業者にとってインセンティブになるわけで、手を抜くことはありえないでしょう。事故前はあったかもしれませんがね。ところが今、事業者に規制を押しつけ、自発性を発揮させない方向になっている訳です。

原発の停止で貿易赤字は膨らみ、電力会社の経営は危機にあります。こうした状況を変えていかなければなりません。行政の手続き上も、そして経済の損失の上でも、原子力規制委員会の行動は、間違っている点が多いのです。