金融は、日本に限らず世界的にどこでも、高度に規制された産業である。まずは、銀行業や第一種金融商品取引業(証券業)という「業」に対する規制(業法)があって、そのなかで、預金、融資、債券などという具体的な金融商品や金融サービスの取り扱いが規定されている。
故に、例えば、資金の借り手の企業の立場からいうと、資金調達という本質的なことが問題であるのに対して、銀行の立場からいうと、融資という個別具体的な金融サービスの問題へ、一気に飛んでしまうことになる。
資金調達の方法は多様だ。銀行からの借入は、多数の選択肢の一つでしかない。社債の発行でも、株式の発行でも、あるいは資産の売却(流動化)でもいいわけだ。本来は、企業の立場で、資金使途に対して最適な調達方法を提案することが、企業金融(コーポレートファイナンス)という金融サービスの本質であった。そして、英語で、このコーポレートファイナンスと同義で使われるのが、インベストメントバンキング、即ち、日本語でいう投資銀行業である。
歴史的には、投資銀行業は、企業の資金調達を総合的に支援する一つの業であったわけだが、世界的な規制は、それを銀行業と証券業に分離する方向へ進む。資金調達という企業経営の死命を制する重要な分野が巨大な投資銀行業者によって支配されると、独占資本主義の弊害を生んでしまうことが懸念されたからである。
その後、資金調達の方法は、銀行借入という間接金融から、株式・社債の発行や資産流動化というような、証券業に分類される直接金融の方向へ比重を移していく。その結果、投資銀行といえば、証券の引受業務に強みのある大手の証券会社を指すようになっていくのである。
そして、近時の金融の規制緩和のなかで、銀行業と証券業は再統合へ向けて動いてきた。2008年の金融危機は、その動きを一気に加速させて、統合を完成させた感がある。改めて、資金調達という本質に対して、そのまま直接にサービスを提供できる体制が整ったわけである。まさに、資金調達そのものへ、である。
資金調達そのものから、もう一つ先の根源へ進もう。即ち、資金調達の必要性そのものへ、である。企業金融は企業の資金調達の必要性を前提にしている。資金調達の必要性自体が無くなれば、企業金融業者(銀行業と証券業を統合した本来の投資銀行)の業としては、成り立たない。逆に、業としては、企業に対して資金調達の必要性を創出する方向へ働きかける誘因を内包しているといえる。
実のところ、2008年の金融危機は、まさにこの誘因を抑制できなかったことに基づいていると考えられるのである。1980年代の日本の不動産バブルは、銀行による過剰融資が原因であった。2008年の金融危機の原因となった世界的な信用バブルは、資産流動化スキーム等を巧妙に使った投資銀行の過剰な資金調達が原因である。
資金調達額が増えれば増えるほど収益が増すという企業金融業者の収益構造を抜本的に変えない限り、将来においても、バブルの発生と崩壊という甚だ好ましくない現象の再来は、不可避と考えざるを得ない。そこで問題にしなければならないのは、企業の側における資金調達の必要性そのものに対する徹底的な検討であろうと思われるのである。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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