「シャフク」の実像 --- 楢原 多計志

アゴラ

一時はサンドバッグ状態だった。社会福祉法人のことだ。「介護・保育事業の経営管理の強化とイコールフィッティングの確立」を最優先案件の1つに掲げる規制改革会議から、今も執拗に攻め立てられている。

“社会福祉事業の屋台骨”を自負してきたシャフクは、いつ本格的な反論に転じるのか。


■許し難い

「多額の補助金をもらいながら、せっせと溜め込んでいる」「間違いだらけの財務諸表を提出して平然としている」「理事会の実態はファミリー企業そのもの」…。規制改革会議の社会福祉法人批判が止まらない。

参入自由を建前とする規制改革会議からすれば、公益事業の下で、国や地方自治体から補助金や特別低利融資などの庇護を受けていながら、株式会社の参入を拒み続けているシャフクは、許し難く、規制緩和のターゲットにふさわしい─ということらしい。

昨年来、厚生労働省に対し、財務諸表の作成・開示、理事会や評議会など組織見直し、役員報酬の開示などを内容とする「法人運営の透明性の確保」、同一事業で株式会社などの参入を排除しない「イコールフィッティングの確立」などを要求している。

■内部留保

法人側の反応は、まだ鈍い。何が問題なのか、今でも事態を把握していない理事長が少なくない。「利益の出ない社会福祉事業を担い続け、自治体にちゃんと収支報告してきた」「株主への配当を強いられ、利益を追い求め続ける株式会社とは組織の存在意義も理念も違う」と言い切る理事長もいる。

規制改革会議の主張には、多少無理がある。「せっせと溜め込んでいる」というのは、社会福祉法人などが運営している特別養護老人ホームの調査結果で1施設当たり約3億円の内部留保があることが根拠になっている。社会福祉法人は介護保険事業に限らず、保育事業や救護支援事業など事業分野は多岐にわたっており、特養の数字だけでは根拠としては弱い。

一般企業でも多額の内部留保を持っているところがあり、経営健全性の指標という指摘がある。特養サイドは「内部留保は施設の増設費や修繕費などに充てる余剰金だ」と反発が強い。

■ホームページ

だが、社会福祉法人側にも問題がある。長期間、税金である補助金を交付されたり、今でも税制優遇を受けていたりしていながら、利用者や納税者への情報開示が遅れている。ホームページのない法人もある。内部留保の累積理由や使途について説明責任を果たないと、地域住民からも不信を招くだろう。

厚労省は、株式会社の参入には消極的だが、社会福祉法人に財務諸表の作成・開示を義務付ける一方、本来事業とは異なる社会貢献事業(例えば、低所得者生活支援事業など)に内部留保の一部を充てるなどして着地点を探っている。

現時点では、社会福祉事業の公益性や必要性は理解できても、情報提供が少なく、シャフクの実像が見えてこないことは確か。

楢原 多計志
共同通信社
客員論説委員


編集部より:この記事は「先見創意の会」2013年3月25日のブログより転載させていただきました。快く転載を許可してくださった先見創意の会様に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は先見創意の会コラムをご覧ください。