財政の長期推計が必要な理由

小黒 一正

4月1日、消費税率が5%から8%に引き上がった。97年4月1日から17年振りの消費増税である。今年12月頃には、消費税率を10%に引き上げる判断を行うはずだ。しかし、このような状況の中、以下のような記事が出ている。

財政健全化、16年度以降の工程明確に 民間議員が提言へ(日経新聞2014年4月2日・電子版)

政府が4日開く経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、伊藤元重東大教授ら民間議員は、2016年度以降の財政健全化の工程を明確にすべきだと提言する。国と地方の基礎的財政収支を20年度に黒字にする目標達成に向け、15年度予算編成を終えた来年初めから検討するよう求める。
政府は中期財政計画で、15年度までの各年は国の一般会計の基礎的財政収支を目安として示している。民間議員は成長戦略や厳しい環境を含めた年金財政の検証などを踏まえ、16年度以降どう財政再建を図るか選択肢をつくるべきだとしている。
来年度予算編成を巡る歳出増圧力もけん制。15年度の政策経費は、消費税率の再引き上げを見込んだ社会保障の充実分を除いて今年度並みに抑制すべきだと訴えている。


では、なぜ政府は財政健全化に向けた工程表の作成を急ぐのか。その理由は、消費税率を10%まで引き上げても、さらなる増税や歳出削減(社会保障予算の抑制が中心)を行わない限り、財政の持続可能性は確保できないためである。

この事実は、内閣府が今年1月20日に公表した「中長期の経済財政に関する試算」(以下「中長期試算」という)の延伸から簡単に確認できる。

図表には、赤線と黒線を一つのグループとして、上から順番のグループ毎に、①国・地方の基礎的財政収支(対GDP、左目盛)、②国・地方の財政収支(対GDP、左目盛)、③国・地方の公債等残高(対GDP、右目盛)の実績・予測を描いている。

このうち、黒線は内閣府の「中長期試算」(参考ケース)、赤線は参考ケースを延伸した筆者の簡易推計である。

黒線(内閣府の予測)も赤線(筆者の予測)も、推計の前提として、2014年4月や2015年10月の消費税率引き上げを織り込んでいることから、2015年度頃まで、国・地方の基礎的財政収支や財政収支はある程度は改善する。

だが問題は、2015年度以降の財政の姿である。2025年度以降は「団塊の世代」の全てが75歳以上の後期高齢者となり、社会保障費の急増が予測されている。現行制度のままでは、特に医療費や介護費がこの頃から急増していく。

このような影響を受けて、筆者の長期推計(簡易試算)では、2014年度・15年度の消費増税を実施しても、2050年度の国・地方の基礎的財政収支(対GDP)は7.9%の赤字、公債等残高(対GDP)は約500%となり、財政は非常に厳しい状態になる。

その際、2050年度の基礎的財政収支を均衡させるには(消費税率換算で)16%の追加増税が必要であり、それは現行8%の消費税率が26%になることを意味する。このような財政の現状を政府は深く認識しているから、2016年度以降の財政健全化の工程の作成を急いでいるのだろう。

しかし、工程表がかつての小泉政権時に作成した「骨太2006」程度の数年しかない場合、国民からすると、財政破綻の回避のため、最終的にどの程度の増税や歳出削減(社会保障予算の抑制が中心)が必要なのか、政策の方向性を明確に判断できないという問題が出てくる。

このような問題を回避するためにも、工程表のみでなく、以前のコラムでも指摘した「財政の長期推計」の公表が望まれる。

(法政大学経済学部准教授 小黒一正)