欧州で「ファミリー番組」は終わった --- 長谷川 良

アゴラ

欧州で最も成功したテレビ・ショー、ドイツ公営放送ZDAの「ヴェッテン・ダス」(‘Wetten, dass…?’)が今年末で終了することになった。ドイツ語圏メディアは4月7日付けで長寿番組の終了宣言をトップ・ニュース扱いで一斉に報じた。

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▲「ヴェッテン・ダス」の終了を大きく報道するオーストリア日刊紙(2014年4月7日、撮影)


ショーマスターのマルクス・ランツ氏(Markus Lanz)は5日夜、番組終了間際、「ヴェッテン・ダスは夏休み後、3回行った後、終了することになった」と突然、明らかにしたのだ。

フランク・エルストナー氏(Frank Elstner)が1981年、初めて「ヴェッテン・ダス」を始めてから33年間、ドイツ語圏の最大のエンターテーメント番組として定着してきた。番組では、世界的な人気歌手やハリウッドのスターを招き、談話し、人気歌手の歌を聴き、そして視聴者が参加するゲームを占う。番組はドイツ、スイス、オーストリアのドイツ語圏のほか、中国、イタリア、ロシアまでも放送されてきた。

視聴者数最高記録は1985年2月9日の番組で2342万人だ。平均1500万人が視ていた。文字通り、大看板の番組だった。例えば、キング・オブ・ポップスのマイケル・ジャクソンがゲストの時(1995年11月4日)、約1900万人が番組を追った。

ZDF側も看板番組として力を入れ、高い出演料を払ってハリウッドの俳優、世界的人気歌手を番組に招いた。1回の番組製作費も200万ユーロにもなったという。

しかし、ここ数年、番組に陰りが見えてきた。具体的には、視聴者数の減少だ。民間放送が若者向けの番組「スター誕生」などを放送し、視聴者合戦が激しくなってきたこともある。

オーストリア日刊紙プレッセ(3月7日付)の文化部記者は「ドイツ社会で家庭が崩壊し、家族揃って、テレビの前に座って番組を見るという情景が少なくなってきたことも影響している」と述べている。

ドイツ社会は少子化であり、核家族だ。お爺ちゃん、お婆ちゃん、両親、子供たちがテレビの前で一緒に番組を視るという光景は現在、ほとんど見られなくなった。現代は一人一人がスマートフォンやインターネットで好きな音楽や動画を楽しむ傾向が強い。欧州一の長寿番組の終了は、ファミリー番組が今後一層難しくなることを端的に示している。換言すれば、ドイツを含む欧州では、ファミリー番組はもはや成功しない、というわけだ。

番組の終了を早めたのは2010年12月4日の番組で、走る車に向かってジャンプするゲームに出演した青年が失敗し、大怪我。青年は背骨を負傷し、歩行不能者となるという不祥事が起きたことだ。人気者の司会者トーマス・ゴチャルク氏(Thomas Gottschalk)は、「番組を継続して司会できなくなった」として番組から下りることを表明した。

同氏の後継者のランツ氏は2012年、番組を軌道に乗せるために努力したが、彼のショーマスターとしての器量の足りなさに不評が多かったこと、番組に招かれたゲストのレベルが落ちる一方、ドイツ人ゲストが増えていったこともあって、視聴者数の減少を止めることができなかった。視聴者数は最近では550万人程度だったというから、全盛期の3分の1だ。

欧州のテレビ関係者は「ZDFは、番組をしばらく休んだ後、人材を一新してヴェッテン・ダスを再開するだろう。なぜならば、視聴者数が減少したといってもまだ約600万人が観ているのだ。ZDF関係者はその番組を完全に終わらせることはないはずだ」と予想している。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。