「高級寿司」は日米関係を救うか --- 長谷川 良

アゴラ

オバマ大統領は4月23日夜、安倍省三首相と銀座の高級寿司店で会食したというニュースが入ってきた。安倍首相がオバマ大統領の個人的交流を深めたいという狙いから高級寿司店での会食が実現したという。


読売新聞電子版によると、「菅義偉官房長官は24日午前の記者会見で、『かなり食べたと聞いている。表情からすこぶる満足だったのではないか』、『非常にくつろいだ雰囲気の中で首脳同士が懇談し、信頼関係を構築する役割を果たすことができた』と意義を強調した」という。同紙によると、オバマ大統領は「寿司を14貫ペロリと食べた」という。

ところで、「高級寿司は両国関係の信頼関係を構築する役割を果たすか」という命題を提示し、考えてみたい。口の悪い政治評論家ならば「高級寿司で国家関係が深まるのならば、世界に寿司を輸出すればいい。寿司はノーベル平和賞を獲得するだろう」といった皮肉の一つでも放つだろう。

実際、高級寿司は紛争を解決しないし、険悪した国家関係を改善するとは考えにくい。しかし、当方は「高級寿司はセンスのない外交より大きな成果をもたらす潜在的可能性を秘めている」と考えている。百万言を吐くより、美味しい寿司をゆっくりと堪能できれば、疲れた心と体は少しは癒されるだろう。

人は昔から会食を好む。美味しい食事を頂きながら談笑する時間は家庭ならば至福の時だ。会社でも上司と部下の交流の時だ。国家の指導者同士の会食も例外ではないだろう。難しいテーマを交渉する時、テーブルに美味しい御菓子や果物でもあれば、会談の雰囲気は和やかになる。

大げさに表現すれば、人が食事を挟んで談笑するのは、いがみ合いの多かった人類歴史から学んできた“知恵”ではないだろうか。

国同士の交流でも、ホスト国は事前にゲストの好物が何かを調べ、会食時にはゲストの最高の好物を並べるならば、会議は半ば成功したようなものだ。

その意味で、オバマ大統領は寿司が大好き、という情報を得て、「銀座の最高級の寿司屋でオバマ大統領を接待しよう」と考えた安倍首相は人間を熟知した戦略家というべきだ。

最後に、なぜ、高級寿司を含む万物を介すると人の心は和み、荒れた心情は落ち着くのか、について当方の所感を述べる。

旧約聖書を読みと、「信仰の祖」と言われたアブラハムは神に万物を供えている。イスラエル(勝利者)という呼称を得たヤコブはハランで得た家畜など全万物を実兄のエサウに捧げ、兄との関係を修復するのに成功している。

すなわち、アダムとエバが堕落した後(失楽園)、人は神に直接帰ることができなくなったので、万物を神の前に供えることで帰ろうとしてきた。万物は人を神に引き戻す役割を果たしてきたわけだ。

だから、「首脳同士が懇談し、信頼関係を構築する役割を果たすことができた」と語った菅義偉官房長官の発言を単なる外交辞令といって切り捨てることはできない。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年4月25日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。