欧州連合(EU)の盟主、ドイツのメルケル首相は5月2日、ワシントンでオバマ米大統領と会談した。今回の訪米の最大目的はウクライナ危機に対する米国とドイツの連携強化だ。クリミア併合の背後で暗躍するロシアに対し、オバマ大統領はEUの盟主メルケル首相と呼吸を合わせてモスクワへの圧力を一層強めていきたい狙いがある。首脳会談後の共同記者会見を見る限り、その狙いは一応達成できた。
米国にとって、プーチン大統領と頻繁に電話で話せるメルケル首相の意見は貴重だ。ただし、米共和党のジョン・マケイン上院議員が「メルケル首相は国内の経済ロビーの影響下にある。ロシアに対して効果的な制裁は期待できない」と考えているように、米国内には、ロシアと経済的繋がりが深いドイツが対ロシア制裁では消極的だ、という不満がある。
メルケル首相は「米欧間の連合に亀裂が入ればプーチン大統領を助けることになるだけだ。プーチン大統領が5月25日のウクライナ大統領選までに事態の沈静化に乗り出さなければ、米欧はさらなる制裁を余儀なくされる」と警告を発し、米国側を安心させている。
ところで、米国家安全保障局(NSA)のメルケル首相携帯電話盗聴が発覚して以来、メルケル首相とオバマ大統領の両首脳間の関係は決して良好ではない。オバマ大統領は記者会見で「国際舞台で私の最も身近な友人」とメルケル首相を紹介し、米独関係を高く評価したが、独週刊誌シュピーゲル電子版は「オバマ氏の語り方は熱情もなく、余りにも事務的だった」と評している。
ドイツ側は同盟国に対するノー・スパイ協定締結をオバマ政権に要求してきたが、米国からはいい返答がない。オバマ大統領自身はNSAにメルケル首相への盗聴を止めるように指令したが、NSAの活動そのものには変更を求めていない。すなわち、NSAは今後も世界指導者への情報活動を継続していくわけだ。
米国の煮え切らない態度に対し、ドイツでは野党「緑の党」などが米中央情報局(CIA)元技術助手のエドワード・スノーデン氏を連邦議会に招き、盗聴問題について語らせるべきだという声が出ている。それに対し、メルケル政権は「米国との関係が一層悪化する」との理由から、その要求を拒否している。
いずれにしても、世界最強国の米大統領オバマ氏と、世界最強の女性指導者メルケル独首相は今回、旧ソ連大国の復活に燃えるプーチン大統領への共同戦線を改めてアピールしたわけだ。
編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年5月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。