連載 GPIF改革の論点 (14) どのようなポートフォリオ分散をはかるべきか 真のリスク要因

小幡 績

どのようなポートフォリオにするべきか。

考慮すべきことは、真のリスク要因は何かということに尽きる。それは二つに分けられ、資産の本源的価値の毀損リスクと価格変動リスクである。日本国債であれば、前者は政府の信用リスクであり、後者は、国債の投資家の行動変化である。上場株式に分散投資する場合は、前者のリスクは小さくコントロールできるが、後者の要因が非常に大きくなる。


価格変動リスクとは、コントロールすべきリスクそのもの、リスクの定義であるが、分散投資によって、個別資産の価格変動が部分的に相殺され、ポートフォリオ全体では資産時価変動幅が低下する。しかし、実際には、この分散投資効果は落ちていて、例えば、世界の上場株式に地域分散を行なっても、ほとんどの国の株価インデックスは連動するため、効果は小さい。この理由は、同じ投資家が世界中に分散投資しているので、この投資家の投資行動が変化することにより、世界の株式は同方向に同時に変化する。典型的には、投資家のセンチメントがリスクオフとなれば、世界中の株式はいっせいに売られ、米国債などに資金が移動する。したがって、株式は投資家のカテゴリー認識では、リスクオンのときに投資するものであり、地域が異なっても同じ資産になってしまう。

したがって、資産の本源的なリスクは対象資産の分散投資でよいが、価格変動リスクに関しては、それぞれの投資対象資産のカテゴリーの裏にある投資家(あるいは彼らの投資行動)そのものをリスク要因として認識し、それを分散させる必要がある。

資産の本源的なリスクはこれまでも十分議論されてきているが、注意すべき点は、見かけ上のファンダメンタルリスクとそのものにリスクがある本源的なリスクを区別する必要があるということだ。

例えば、国債に関する中央銀行の政策リスクは、財政ファイナンスとみなされ、政府の信用リスクが高まることで、初めて本源的なリスクとなる。中央銀行の政策変更自体は、国債の利回り、利回りは本質的には価格であるが、価格の変動として現れるが、価格が下落しても、元本も利子も返済される場合には、長期保有で持ちきる場合には、リスクにはならない。機会損失とはなるが、それは別の枠組みである。

そして、価格変動リスクという要因が、価格変動というリスクの背景にあるという議論は、トートロジーのように見えて、本質的である。なぜなら、ほかの要因に帰することができず、単に価格が変動すると捉えたほうが、価格変動の本質を捉えており、将来の予想が立てられ、また、ポーフォリオとして価格変動リスクに対処しやすくなるのであり、それは投資家リスクとして捉えるのが、思考のフレームワークとしては、最も生の真実に近づけることになる。

この価格変動リスクをリスク要因そのものと捉えることで、これまでファンダメンタルズリスクと思われていたものは、別の形で、より直接的に認識されることになる。

例えば、日本国債にはインフレリスクがあるといわれてきたが、正確には、インフレが生じると思われると、国債を売る投資家が増えて、価格が下がるからであって、インフレが直接影響するわけではない。投資家たちは、国債とりんごやみかんの価格を比較しているのではないからだ。インフレリスクは、あくまで、日本の物価が上昇するという期待が高まったときに、日本円の価値が低下すると思い、日本国債から米国債に、あるいは実物資産とみなされている株式や不動産に資金をシフトさせるという行動が投資家によって起こされる場合にリスクとなるのであって、りんごの値段が上がったことによって、国債が売却されるわけではない。さらにいえば、このようなストーリー、インフレになれば、投資家たちは日本国債を売ってほかの資産に資金を移動させる、というストーリーを信じるから、あるいはほかの投資家が信じると信じるから、資金を移動させることによって、インフレリスクは価格下落となって実現するのであって、投資家の投資行動リスク、投資家リスクと捉えたほうが予測しやすい。

一方、本源的なインフレリスクというのも実は存在し、それは資産インフレリスクであり、りんごやみかんのモノのインフレリスクではなく、資産市場全体のインフレリスクである。資産市場全体が高騰することにより、すべての資産価格が上昇するなかで、国債だけが値上がりしなければ、それは価格の下落となり、リスクは実現する。元本を保有していれば、価格下落は関係ない、短期の変動であれば、長期保有は関係ないと思われるが、これはそうではなく、機会損失と捉えてもいいが、相対的にほかの資産に比べて値下がりしてしまい、資産の相対的な価値が下がってしまうことになるのである。

まとめると、資産には本源的な資産そのものに内在するリスクと、それに価格が付くことによる価格変動リスクがあり、前者をコントロールするためには、運用資産自体を分散、多様化する必要があり、そのときに、真の本源的なリスク要因を認識して、分散を歯駆る必要があり、後者の価格変動リスクに対しては、背後の投資家の行動、投資家リスクをコントロールするために、投資家が異なる市場で運用する必要がある。

後者のことは、長期保有であれば関係ない、価格変動は長期にはむしろそのリスクがある分のリターンとなるから、というのが教科書的な理解であるが、現実の市場ではそうではなく、長期のモーメンタムがある。上場株式は流動性と価格の乱高下の機会を与えることによって、刺激的な資産運用をしたい投資家に好まれてきたが、このような投資家および投資行動がブーム、流行となったことで長期の右上がりが実現してきたのであり、いまや、そのような投資家や資金は潤沢にありすぎるため、割高になっており、これ以上の流入増加が今後見込めないとすると、投資行動も変化する可能性がある。したがって、価格変動リスクをとれば長期には、そのリスクに見合ったリターンが得られるという教科書に書いてある関係性は安定的でなくなる可能性がある。

したがって、価格変動リスク、本源的には投資家リスクに対しては、この投資家を意識して、投資対象資産というよりは、投資対象市場を分散させるという意識で、分散投資を行なうべきである。そしてもう一つの投資家リスク対処法は、資産や市場ではなく、人間に注目することである。つまり、投資対象資産ではなく、投資する人間や機関そのものに注目し、このリスク分散をはかる必要がある。それがスタイルであり、投資スタイル分散である。ベンチマークの採用に関することや、オルタナティブ資産ではなく、オルタナティブ手法を採ることである。これを次回議論しよう。