極点社会を考える ~ 東京一極集中はやめよう --- 大谷 由実

アゴラ

先日、NHKのクローズアップ現代で放送した「極点社会」を見て、非常にショックをうけました。この番組が提起したことは高齢化社会の問題のみならず、少子化の問題にもつながることだったからです。


番組が提起したことは

  1. 地方ではすでに高齢者人口も減少し始めており、年金で支えられてきた地方の経済は崩壊してきており、すでに「限界集落」ではなく「消滅集落」になっているということ。
  2. 地方では高齢者施設もすでに空きがでてきており、地方の高齢者施設が東京に進出し、施設を建てはじめており、東京での人手不足が生じているため地方の若い女性を介護の担い手としてリクルートし、東京に送り出すようになっていること。
  3. 東京で働き始めた女性たちが仕事に追われ、また東京で子どもを育てるインフラが整っていないことから子どもを作りにくい状況になっていること。

です。

なかでも若い女性が東京に吸い寄せられていく現状は地方在住の身からはさびしいことです。「極点社会」とは東京一極集中の社会ということですが、そんなに集中していいのかなという感じです。しかし昨今の東京中心の情報しかでないテレビ番組をみると若い人は行ってみたいだろうな、引き止めることは難しいなと思うばかりです。

若い人たちが東京にあこがれる気持ちはほんとによくわかります。自分も若いときは東京にあこがれたものです。あらゆるエンターティメントやショッピング施設があり、その上、もう少ししたら東京オリンピックもある、暮らしてみたいと思うのも当たり前です。それでもちょっと待ってと言いたい、東京で100%幸せになれるとは限らない、特に結婚後は暮らしも大変だよ、と思うのです。

だからといって田舎がいいとも実際思いません。特に県庁所在地から遠い地方では若い人には何の魅力もないだろうと思います。まず仕事がない、遊ぶ場もない、小学校の子どもも1クラス数人では子育てだって不安です。地方に住まわれている方には怒られるかもしれませんがあえて地方で暮らしたいと思う魅力がないのです。実は私も山間の町で生まれましたが、学生時代から県庁所在地の市に移り住み、現在もそこで暮らしています。今でも両親は田舎で暮らしていますが、その町も老人ばかりで役場や農協で働く若い人の中には車で都市部から通勤している人もいます。

一度都市部に住み、その快適さを実感してしまうと、なかなか地方の田舎では暮らしにくくなると思います。ですからここは割り切って東京ではなく、各県の県庁所在や中核都市にできるだけ若い人に集まってもらって住んでもらう、田舎の町村に若い人がいなくなっても仕方ない、「消滅集落」は仕方がないと割り切って、各県の中核都市に出産子育てサービスなどを集中させ若い人が暮らしやすい環境を整える、それくらいの意識転換は必要かなと思います。ともかく県に残ることをやめて地方から東京に飛んでいく人たちにちょっと待ってと言いたいのです。

地方都市に住んだほうが広い住居に住めるし、ちょっと郊外に行くと自然も豊か、映画館やショッピング施設も一応そろっている。たまに東京に遊びに行く、そんな生活はどうでしょう、ただひとつ仕事さえあればということですが。若い人を地方都市にとどめおくためには雇用の創出が一番重要なことになります。ですから魅力的な地方都市を作るためには県の中で人の集中が必要になると思います。まずは「極点社会」でなく、「多点社会」をめざすべきだと思います。

大谷 由実
地方在住、内科医