前回の記事「東京への人口集中は進む」の続き的な意味合いで書かせて頂く。
福岡の人を勇気づける話だ。
関西の人、ゴメンナサイ。
前回、人の流れは東京一極集中だ、ということを書いた。今回は、だからと言って、何でも東京に一極集中させた方が経済的・効率的なのか、という話だ。
前回の最後に、空港に関する話を書いた。今回は、いわゆる「ハブ港湾」の話である。東京湾に「ハブ港湾」を作るのは、ほんとうに経済的で効率的なのだろうか。
神戸港が震災により壊滅的な被害を受け、それまで神戸を利用していた荷物が釜山に流れて、復興後も戻って来ずに、アジアのハブ港湾の地位を釜山に奪われた、という話は、よく世間で流れている。
しかし日本には「報道しない自由」があるので、「何故釜山に流れた荷物が神戸に戻らないのか」について、的確な情報はほとんど流されていない。言われるとすれば、「インフラが釜山に負けているから、日本の港は釜山にかなわない」という、ミスリードを誘うような論調である。
では何故釜山に流れた荷物が神戸に戻らなかったのだろうか。それは、いざ釜山を使ってみたら、釜山が便利だったから、という、ごく単純な理由なのである。
何が便利なのか。インフラが整備されているから、というだけではない。
東アジアから北米への貨物船は、日本海から津軽海峡を抜けるルートをとる方が、太平洋を回るより近いのである。近いということは、時間も早いし運賃も安くなる。釜山の港湾設備に問題がないのなら、荷主の立場からすると、そりゃ神戸よりも釜山を使おう、ということになるのだ。
こうした状況に対して、インフラ整備が主目的になっている日本政府は、日本の港が釜山に負けている主要因が、あたかも港湾インフラの問題が大きいかのようなイメージ作りをしてきたのである。
もしアジアのハブ港湾としての地位を日本国内の港で狙うのであれば、日本海側の港しかなく、可能性があるのはほぼ福岡(博多港・北九州港)だけなのである。
「ハブ港湾」という名前をそのまま解釈すると、その港に用がない荷物を、単に積み替えるだけのために使う、ということである。
東京港で積み下ろしをしない荷物を、ただでさえ混雑している東京湾に運ぶのは、どう考えても非効率だということは、誰にでもわかるだろう。そもそも太平洋側にある時点でハブ港湾としては致命的な欠陥を抱えているのに、ましてや東京湾という狭い海域に大型コンテナ船を沢山入れようなんて、狂気の沙汰である。荷主の立場からしても、何で釜山経由より時間も運賃もかかる東京港経由で荷物を送らないといけないのか、となるのが、当たり前のことだ。
政府は平成22年に、「アジアのハブ港湾」を担うために集中して予算投下をする「国際コンテナ戦略港湾」の選定をした。この時に注目されたのは、京浜と阪神はほぼ当確として、福岡(北部九州港湾)がここに入るのかどうかだった。
先に書いた通り、本当に「アジアのハブ港湾」を日本国内に育てよう、という目的であるのなら、その場所は福岡以外に考えられない。しかし、この国際戦略港湾指定の目的は、予算を沢山落とす港湾を決めることである。さらに言えば、関東・関西に大量の予算を確保することに裏付けを与えることであったので、京浜と阪神はほぼ当確、果たして福岡を入れるかどうか、というのが事前の見方であった。
結果をいえば、京浜と阪神の2つだけが選ばれ、福岡は落選したのだが、こういう選定は経済性より政治力で選ばれるのだから、まあ仕方のないことだろう。
そして、ただでさえ狭くて混んでいる東京湾に、航路も空港も作ろう、とすると、どうなるのか。
その結果が、前回の記事にも書いた、羽田空港でさえも多額の経常赤字を生ませることになる、莫大な建設費をかけたD滑走路の誕生である。羽田空港のD滑走路は、東京港の航路を確保するために何とか頑張って設計したために、レイアウトに無理が出て、それを解決するための構造にしたために建設費が嵩んだのである。
東京は空港は整備するけど航路はあきらめる、とか、そういう選択をすればもう少しお金がかからない方法が考えられたのだろうが(しかも港湾が勝てないのは見えているという状況で)、「何でも東京」を推し進めたために、こういう状況になっている。
蛇足であるが、「何でも東京に」と前面に押し出して言うのならまだ納得できるが、「日本の発展のために」という大義名分で「何でも東京」を推し進めているのは、いかがなものかと感じる。本当に日本の発展という観点から考えると、少なくとも港湾は福岡に集中投資すべきだからだ。
前田 陽次郎
長崎総合科学大学非常勤講師