拉致被害者再調査から対半島外交を考える --- 岡本 裕明

アゴラ

ストックホルムで開催されていた日朝局長級協議において拉致被害者の再調査の約束を北朝鮮側から取り付けました。ニュースではこの部分が集中的に取り上げられていますが、個人的にはその先に非常に興味深い展開が考えられるとみています。今日は焦点が当たらないところを中心に考えてみます。


まず、拉致被害者の再調査に対する日本側の見返りです。日経電子版では「日本側は再調査の見返りとして、調査を開始する時点で(1)人的往来の規制(2)送金報告や携帯輸出の届け出金額に関する規制(3)人道目的の北朝鮮籍の船舶の日本への入港禁止措置――を解除する」となっています。但し、北朝鮮貨客船「万景峰92」の入港再開は入らないと菅義偉官房長官は認識を示しています。

ただ、これは「調査を開始する時点で」と断りがあるように、日本側と北朝鮮側とも本流のポイントではありません。拉致被害者問題解決は日朝間の将来の発展的関係を構築するためのハードルに過ぎないからであります。

今、日本で韓国にひいき目の話をすれば売国奴と言われるでしょうし、韓国で日本びいきの話をすれば逆のケースが生じるでしょう。完全に冷え切った両国の関係は日本のタブロイド新聞の過激で見るに堪えない見出しに象徴できると言ってもよいでしょう。ところが、北朝鮮を同じ朝鮮半島に位置する一括りの国にしてしまうと過ちが生じてしまいそうです。

朝鮮半島の歴史をさかのぼってみると、とにかく一定していません。ざっくり、高句麗、百済、新羅の辺りから年表を見てもらうとある流れが見て取れます。それは国を大きく分割していた時代が頻繁に発生していたということで、部族的な闘争があったのではないかと考えています。この項についてはかなり研究が必要ですが、現在の北と南に分かれている現状が朝鮮半島の歴史を1500年遡っても同じことが起きていた可能性を否定できない気がしています。

もう一つは日本と北朝鮮のまことしやかに伝えられるさまざまな関係であります。特に第二次世界大戦後、現地に残った日本人、陸軍中野学校から送り込まれたスパイとその子孫、更には金正恩の母親は大阪にいた在日韓国人ですし、金正日の出目についても日本人といううわさはあります。つまり、日本と北朝鮮には表に出ない濃い関係が存在しているようなのです。

こう考えると北朝鮮を一面的な視点で敵と捉え、日本が対立姿勢を強めるより外交を通じて一定の関係を作る方が双方にメリットがあるという考え方も成り立ちます。

以前にも指摘しましたが、金正恩氏がいまだ中国に正式訪問をせず、両国間の関係に微妙な空気が漂い、南の韓国を挑発し続けるのは北朝鮮が自分で自分の首を絞めてしまったようなものです。一方、アメリカは6ヵ国協議を主導するパワーがなく、消去法的に日本が「良好な状態で」残っているとも言えます。

そういう意味からは外交ルートを通じた両国間の再構築と安全保障の確保には絶好のチャンスとも言えます。

ところで今回の日朝局長級協議において聞こえてこない最大の話題はマルナカによる朝鮮総連中央本部の取得問題。北朝鮮側が最も譲歩を求めているのは「在日北朝鮮大使館」の維持でありますが、記事にならないところを見ると何かありそうな気がします。想像ですが当面、マルナカは(政治的意図を背景に)自発的に北朝鮮への賃貸し継続をするのではないかと思います。少なくとも退去を迫ることはないと読んでいます。

安倍政権としてはロシア外交でさえない展開となってしまったこともあり、ここで挽回を図るのは一策でしょう。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月2日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。