政府が出す「骨太の方針」で「もはやデフレではない」とうたい上げるそうです。その通り。4月の消費者物価指数は3.4%も上がりました。これには消費税の値上げ分が含まれているので、それを引くと1.7%だそうですが、それでも立派なインフレです。よかったですね。安倍首相の念願の「デフレ脱却」は意外に早くできましたが、それで暮らしはよくなったんでしょうか?
このように税金や電気代などのコストが上がって物価が上がるのをコスト・プッシュのインフレといいます。みなさんの学校でも給食費が上がったようですが、それでみなさんはうれしいでしょうか? うれしくないですね。お母さんは「給食費が上がったからおこづかいは減らすわよ」というかもしれません。
日本経済でも、同じことが起こっています。物価は3%以上あがったのに、4月の名目賃金(現金給与)は0.9%しか上がっていないので、実質賃金(インフレの目減りを引いた給料)は3.1%も減りました。おかげで人手不足が起こっています。それは当たり前です。経営者はインフレでもうかるからです。
たとえば300円(税込み)の牛丼がインフレで330円になって、店員の時給が800円のままだったら、牛丼チェーンは(増税分を引いても)もうかります。店員もバカじゃないので、仕事がきついのに時給が変わらない(実質的に下がる)ような店では働かないで、もっと楽な仕事をさがします。これが人手不足の原因です。
こんな簡単な計算もできない政治家のみなさんは「デフレ脱却」を喜んでいますが、コストプッシュ・インフレで得するのは経営者だけで、店員も消費者も損します。消費者が損すると消費が減るので、牛丼は値上げしても売り上げが減るでしょう。コストプッシュは経済学でいうと、供給が減って価格が上がるインフレなので、経済は縮小するのです。
インフレにはいい面もあります。実質賃金が下がると労働供給が減って需要が増えるので、失業が減るはずです。しかし完全失業率は3.6%と、今年になってほとんど変わりません。これは完全雇用(自然失業率)に近い状態だ、と日銀の黒田総裁もいっています。インフレは賃金を下げて失業を減らす効果があるのですが、もう失業がこれ以上へらないから、人手不足が起きているのです。
よい子のみなさんにはむずかしいと思いますが、日本経済は供給不足だから、これからインフレになるでしょう。物価が上がってもお父さんの給料は上がらないので貧しくなり、みなさんのおこづかいもへらされるでしょう。それも「デフレ脱却」のおかげです。めでたしめでたし。