米下院の共和党ナンバー2であるカンター院内総務がバージニア州で10日に実施された共和党予備選で、まさかの敗北を喫しました。ティーパーティー派で新人のデビッド・ブラット氏とは、5月後半の世論調査で62%対28%。カンター議員が圧倒的優位に立っていたものの、フタを開けてみると55.5%対44.5%で議席を譲るかたちとなってしまったのです。共和党を震撼させる大番狂わせは、当時現職だったトム・フォーリー米下院議長(民主党、ワシントン州)が1994年の中間選挙でジョージ・ネザーカット氏に敗れて以来20年ぶりとなります。
共和党の幹部、7期目の予備選で新人(右、ブラット氏)にまさかの敗北。
(出所 : NPR)
新人のブラット氏は、ランドルフ-メコン大学で経済・倫理学の教授。その彼に現職のカンター議員が敗北した理由は、インターナショナル・ビジネス・タイムズによると以下の5つが挙げられます。
1)移民政策に対する踏み絵
ビジネス寄りのカンター議員が「アムネスティ」とあだ名された不法移民の子供をアメリカ市民として受け入れる移民政策を支持し、ブラット氏はこの点を中心に攻撃。
2)ティーパーティーは死なず
ブラット氏はティーパーティーから選挙資金の援助を受けていなかったものの、草の根保守派運動の論客アン・カトラー氏、ローラ・イングラハム氏が選挙演説に登壇。
3)カンター議員と企業との密接な関係
ブラット氏はカンター議員と企業と密接な関係に焦点を当て、大企業寄りの政策を批判。
4)選挙資金の差を活用したネガティブ・キャンペーン
カンター議員の選挙資金は、ブラット氏の20万ドル(一部報道では12万ドルとの説も)対し500万ドル。選挙資金の優位をフルに活用しカンター陣営はネガティブ・キャンペーンで集中砲火したものの、裏目に。
5)カンター議員の不人気を露呈
パブリック・ポリシー・ポーリングが10日に発表した調査では、カンター議員の仕事ぶりに対し「不支持」が49%と半数近くに及び、「支持」は43%に過ぎなかった。民主党の間では、「不支持」が91%と圧倒的。
カンター議員、2期目をピークに低下をたどり7選目で敗北。
(出所 : LA Times)
今回の番狂わせで、米国内に根付くティーパーティー台頭の懸念とともに連邦政策の行き詰まり再来への不安が高まっています。確かに潮目は変わってきたとはいえ、共和党が大きく右方向へ舵を切ったかというとそうとも言い切れず。草の根保守派運動寄りの議員と戦った現職のリンジー・グラハム下院議員(サウスカロライナ州)は、得票率58%と決戦投票の分水嶺を超え予備選を勝ち抜きました。5月20日のケンタッキー州共和党予備選では、約25%もの大差でミッチ・マコーネル米上院院内総務がティーパーティー寄りのマット・ベビン氏に勝利していたんです。
カンター米下院院内総務は11日、選挙結果を受けて7月に辞任する意向を表明。共和党に走った衝撃は、米下院議長の人事にも波紋を投げかけます。仮に以前から伝えられたとおりジョン・ベイナー米下院議長(オハイオ州)が辞任すれば、ジェブ・ヘンサーリング議員(テキサス州)のようなガチガチの保守派が議長に選出されかねない。民主党とさらに対立が深まり政策がこう着するだけでなく、2013年10月の政府機関閉鎖時のように支持率低下も避けられず、足元ではベイナー議長続投との見方が固まりつつあります。
なお共和党の現在の支持率をみてみましょう。ポリティコが5月20日に発表した世論調査で、中間選挙が仮に今日だったらどちらに投票するかとの質問に対し共和党との回答が41%に達しました。民主党は34%にとどまります。下院では39%が共和党、民主党は20%。上院でも共和党が43%に対し、民主党が36%に甘んじていました。
ギャラップが発表した5月8~11日時点での世論調査では、共和党、民主党、独立のいずれに属するかとの問いに民主党が31%と共和党の24%を上回った。独立派が最も多く、43%。民主党寄りとの回答も47%と、共和党寄りの40%を超えていました。選挙には魔物が棲むだけに、引き続き思いがけないドラマが期待できそうです。
(カバー写真 : Politicususa)
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年6月12日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。