なぜこれほど公明党はダメになってしまったのか --- 島田 裕巳

アゴラ

公明党は、集団的自衛権の問題で、安倍首相の強硬な姿勢の前に、なすすべもなく抵抗できず、結局、その行使を容認する方向にむかっている。公明党の幹部は、連立を維持するためには、こうするしかないと判断したのかもしれないが、支持母体である創価学会は、早々と集団的自衛権の行使容認に慎重な姿勢をとるよう見解を発表していた。この見解を、公明党は裏切ってしまったことになる。


私は、新聞からコメントを求められ、今回は公明党に自民党に対する妥協の余地はないのではないかと答えたが、事態はそれからまったく予想外な方向に進んだ。公明党が、これほど簡単に抵抗を止めてしまうとは想像もできなかった。というのも、今回のことは、公明党と創価学会の今後に甚大な影響、間違いなく悪い影響を与えることになるからだ。

公明党が妥協したことに対して、創価学会が見解以外抵抗しなかったのは、何より池田大作名誉会長の「不在」が大きい。池田氏の近影は、機関紙である『聖教新聞』にたまに掲載されるが、生の声はまったく伝わってこない。池田氏が書いたとされる小説や往復書簡、激励のことばは掲載されるが、本当に本人のものなのか、外部からは確かめようがない。少なくとも、池田氏の肉声とおぼしきものが、集団的自衛権の問題についてはまったく公表されてこなかった。

そこには、池田氏の健康上の問題が影響している。池田氏が発言しない(あるいは、できない)ために、創価学会のほかの幹部が、組織を代表して発言できないし、また、公明党の方針に対して注文をつけることもできない。そこには、もちろん政教一致への批判に配慮するということも関係しているが、それよりも、池田氏の意志が誰にもわからないということが決定的な影響を与えている。

公明党の側も、池田氏の意志がわからないので、どこまで妥協が許されるのか、創価学会が納得する線を見極められない。近年、公明党と創価学会は、自分たちの意志を明確にしなければならない問題に直面してこなかったため、池田不在の影響が直接に表に出なかったが、今回のような事態が起こると、それがてき面に表面化する。

創価学会は、組織としての意志を明確にできない集団に成り下がり、公明党もその影響を受けて、判断力を失ってしまった。そのため、安倍首相に強く出られると、ただただ後退するしかなくなってしまったのだ。

そこには、公明党議員の変質ということも関係している。現在の公明党の議員は、太田昭宏氏を除いて、創価学会のなかで宗教活動を展開した経験をほとんどもっていない。学会員の家庭に生まれ、幼いときは活動をしていたかもしれないが、大人になってからは、弁護士や一般紙の新聞記者、あるいは『公明新聞』の記者などをしていて、学会活動はしていない。創価学会の特徴的な布教活動、「折伏」など、おそらく議員たちはしたことがないだろう。

かつての創価学会員は、議員を含め、折伏によって鍛えられ、それで戦う力を身につけてきた。それが今の議員にはない。しかも、創価学会という強力な支持母体があり、選挙活動はみな学会員が担ってくれるので、自前で後援会を作るなど、支持者を広げる活動もしてない。公明党の議員は、まるでおぼっちゃんであり、お嬢ちゃんなのだ。戦う力は、他党の議員と比べてもはるかに劣る。

そんな議員が、自民党の議員に勝てるわけではない。新党ブームで浮動票によって当選した議員とどっこいどっこいの力しかもっていないのではないか。

しかし、今回の容認は、今後の公明党創価学会に深刻な影響を与えるに違いない。

まず、公明党は、自民党が押せば必ず後退するというイメージが完全にできてしまった。公明党が何かの問題で抵抗しても、世間はたんなるポーズにしか受け取らない。「下駄の雪」という批判をもう跳ね返すことはできない。自民党も、何をしても公明党は抵抗できないと高をくくってかかってくるだろう。

しかも、創価学会はこれまで、池田氏を「平和思想家」として打ち出してきたわけで、今回の方向性はそれに逆行する。そのうえ、集団的自衛権が想定する仮想敵は、創価学会が友好関係を誇ってきた中国だ。中国との関係にも大きな影響を与えるだろうし、とても池田氏を、ガンジーやキングに並ぶ平和思想家だと宣伝することはできなくなる。

創価学会員も、選挙のときに、会員ではないが公明党に投票する「F(フレンド)票」獲得の活動をするとき、会員外から今回のことを持ち出され、批判されたり、揶揄されるだろう。ただでさえ、今の学会員は、そうした批判を受けてまで選挙活動をすることに消極的だ。批判ばかりされれば、選挙に力を入れることはなくなる。彼らは、仕事ではなく、ボランティアで活動をしているわけで、生活がかかっているわけではない。

もともと創価学会が政界に進出したとき、政党を作ることも、衆議院に進出することも考えていなかった。地方議会と参議院しか想定されていなかった。それは、政権に加わる意思がなかったことを意味する。その原点に戻るべき時が来ている。

島田 裕巳
宗教学者、作家、東京女子大学非常勤講師、NPO法人「葬送の自由をすすめる会」会長。元日本女子大学教授。
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