ソーシャルセクターとの関わりも深いウェブ編集者
今回インタビューさせていただいたのは、フリーのウェブ編集者・佐藤慶一さん。佐藤さんは、この春に大学を卒業し、メディア「現代ビジネス」の編集者でもあり、個人メディア「メディアの輪郭」運営者でもあるウェブ編集者です。
そして、彼は大学では国際関係論を学び、大学生時代よりNPO支援をライフワークとするソーシャルセクターとの関わりも深い人なのです。若手の注目パーソンは、世界の変化をどう感じているのか。今回は、ウェブ・メディアの未来と、社会貢献との接点について、お話を聞いてきました。(聞き手:安藤光展、取材協力:CSRビズ)
大学生活と難民問題
安藤:最近では、「メディアの輪郭」が色々話題になることが多いです。大学生時代からウェブ編集者として活動していましたが、専攻は何だったんですか?
佐藤慶一さん(以下、佐藤):国際関係論を専攻していました。ゼミではアフリカとか途上国の政治・経済、開発論を中心にしていました。僕はミャンマーの難民問題をテーマにしていました。実際にアジアの難民キャンプに行きフィールドワークをして研究していたり、卒論も難民問題をテーマにしました。ウェブ編集がどうこうという話は大学の授業では学んでいません。メディア運営企業に入って経験を積みました。
安藤:今はウェブ編集者として仕事をしていると思うのですが、難民問題とか、アジアや世界の途上国の問題とか、まだ興味はあるんですよね?
佐藤:興味はありますよ。今でも、少しですが情報収集もしています。
安藤:日本での難民問題も最近話題ですよね。要は受け入れるかどうかという議論なのですが。そのあたりはどう思いますか?
佐藤:受け入れる、という方法もあると思いますけどね。日本への難民申請数は伸びていて、年間4千件以上の申請があると言われています。その中で実際に審査を通るのは1%いない、というような受理数だったと思います。難民の受け入れが良い悪いというのは一概に言えませんが、その受け入れ制度は、改善していく必要があるかもしれません。
安藤:さすが詳しい。日本行きを希望する難民の人たちって基本無理なんですね。恥ずかしながら、初めて知りました。
メディアの新興国でもあるアジア
安藤:ちなみに、アジアの話が出ましたが、注目している国ってありますか? 社会的な視点からでも、今の本業(ウェブ編集者)としての視点でも構いません。
佐藤:難しいですね。「ウェブ・メディア」という視点で言えば、インドに注目しています。今年に入って米国新興メディアである、「Business Insider」に続いて、「Buzzfeed」と「Quartz」が間もなくインド版を立ち上げると発表していました。
海外の大手メディア・ニュースメディアがこぞってインド進出をするということは、非常に示唆的なニュースだと感じています。ポイントになるのは、欧米以外の人口が多く、未開拓の英語圏を抑えにいっているという部分でしょうね。
安藤:なるほど。たしかに、欧米の新興メディアがたくさん出てきて、ニュースメディアはもう頭打ちな部分があるんでしょうね。そうなると、例えば、アジアではフィリピンとかもインド進出がうまくいけばターゲットになってくるかもしれませんね。
佐藤:そうですね。立て続けに大手メディアの進出の話がありましたので、中小の新興メディアにも何らかしらの影響を与えるだろうし、これからはインドのマーケットは非常に注目です。もちろん、アジア以外の英語公用語エリアの動向にも注目しています。
メディアはあくまでも手段でしかない
安藤:ウェブ・メディアの動向や、アジアや途上国のソーシャルセクターの活動にも詳しい佐藤さんですけど、ぶっちゃけ、今後何を目指すのですか?20代半ばにして、早くも一通りウェブ編集業をやりきっている印象がありますが。
佐藤:個人ブログを書いていたのをきっかけにして、「テントセンMagazine」、「トジョウエンジン」、という社会貢献系メディアの立ち上げをしました。また最新の個人ブログ「メディアの輪郭」もまだ立ち上げたばかりです。
他にも講談社の「現代ビジネス」では編集者として関わらせてもらっていますし、「ハフィントンポスト」や「BLOGOS」というメディアにも寄稿(転載)という形で情報発信をしています。様々なウェブ・メディアに関わっていますが、メディアはあくまでも手段。メディアを通じて何を実現したいか、というのが重要だと思います。
将来的には、地方の情報発信に関わりたいですね。自分が地方出身(新潟県佐渡市)というのが大きいです。他にはNPO/NGOの情報発信にも引き続き関わっていきたいです。あとは「トジョウエンジン」のような、途上国の情報発信にも興味があります。目指したい領域はこの3つですかね。ローカルメディア、NPO支援、途上国、の3つ。
特に途上国の難民に関するメディア運営には興味があります。事例もあって、世界最大級の難民キャンプ、ケニアのダダーブ難民キャンプで難民自身が情報発信するウェブ・メディア「ダダーブ・ストーリー」というのがあります。こういうものがいいですよね。漠然とですが、こういったメディアにも関わったり、作ることができたらと考えています。
社会課題の認知から、解決するまでのストーリーがメディアの中で作れればいいですよね。これは確か難民自身が制作する動画がメインです。デザインもオシャレですよね。テーマは難民問題なのでセンシティブな話ですが、このカジュアルなデザイン・トーン(雰囲気)は見たくなる要素の一つでしょう。
動画メディアは、その先を明確にすべき
安藤:このサイトも動画中心ですか。日本でも去年から動画サイトが増えていますけど、流行なのでしょうか?
佐藤:流行ではありますけど、個人的には一時的なものだと思っています。バイラル(クチコミ)の仕組みは今後のメディア運営において非常に重要な要素かと思います。多くのサイトは、動画もキュレーション(まとめ)しているだけで、製作をしているメディアは少ないです。
だから日本に何十とある、動画キュレーション・メディアも同じような動画ばかりになっている現状があります。これで、差別化できて生き残るのは非常に困難かと思います。
メディアはあくまでも手段という話をしましたが「動画をキュレーションして何を伝えたいか?」という点が明確になっていないメディアは先がないでしょうね。読者としても、「どこのメディアも同じ動画ばかりでつまらない」となる気もします。オリジナリティのある表現は難しいですよね。
安藤:ちなみに、動画以外で今後注目のウェブ・メディアってどういうジャンルがありますか?
佐藤:ローカルメディアは可能性があると思うんですよね。例えば「東京からアクセスできない沖縄のローカルメディア」とか。
日本のインターネット全体の話でいけば、東京(首都圏)からのアクセスがほとんど。地方を東京の人に知ってもらいたいというのはあるけど、ローカルメディアは地元の人にこそ見てもらいたいもの。アクセス制限をかけて希少性を出すとか、PCから見られないようにして、スマートフォンのみアクセスできるサイトとか。結構ユニークだと思いますけどね。ローカルの情報は、まだまだ掘り起こせると思っています。
NPO支援というライフワーク
安藤:では、次の質問に。今、お忙しいと思うのですが、NPO支援って何団体くらい支援しているんですか?
佐藤:NPOの支援はいくつか支援をしていますかね。この半年で5~6団体くらい。内容は、ウェブ・メディア立ち上げのアドバイスとか。NPOのメディア運営支援もライフワークですが、規模は問わず企業のメディア運営支援もさせていただいています。このような経験を元にNPO支援にも力を注いでいこうと思っています。
安藤:ローカルメディアの話もありましたけど、地元に帰ったりはしないんですか?
佐藤:30歳くらいで地元に戻りたいです。あと5~6年後ですけど。ちょっと先なので実際どうなるかはわかりませんけどね(笑)。将来的には、実家に戻るか、海外に行くかの2択だと思います。それこそアジアとか。他に選択肢があるとすれば、地元ではない、地方に引っ越すという選択肢もないことはないですけど。
今の所、一生東京にいるというイメージはありませんね。情報量は東京がダントツですけど、何でもあるぶん、疲れてしまう気がしています。
安藤:だったら、「地域を編集する」という意味で、地元の市議会議員とかどうですか?エリアは限定されますが、ダイナミックに動けると思いますけど。
佐藤:家族で議員をやっている人もいたので結構身近な話題ですね。現状なる気はありませんけどね(苦笑)今は、興味がある、ウェブ・メディア編集とNPOのメディア運営支援というパラレルキャリアで、仕事をしていきたいと思っています。
(写真提供:佐藤慶一、取材協力:CSRビズ)
※若手ウェブ編集者の佐藤慶一氏が語る、メディアと社会貢献の可能性|CSRビズより修正・加筆し転載。