日朝外交のど真ん中に居座る朝鮮総連競売問題 --- 岡本 裕明

アゴラ

朝鮮総連競売に関して総連側が供託金1億円を納めることを条件に、一時的に売却許可決定の効力を停止する決定を最高裁小法廷が下したニュースを聞いて「うん?」と思った人は多いでしょう。

本件はもともとは総連に対する債権を朝銀信用組合から譲渡された整理回収機構からの訴えに対し総連側が敗訴したことからスタートしています。その後、紆余曲折のち、香川県のマルナカHDが落札、同社は同敷地を再開発する計画を打ち出し、所有権移転後、総連を立ち退かせ、ビルを建てる予定でした。そのプロセスは順調に進み、総連側が執行抗告も行っていましたが高裁はこれも棄却、マルナカはほぼ事務手続きで落札できるところまで来ていました。


ところが、総連側はここで特別抗告を求めます。特別抗告とは「他の方法で不服を申し立てることのできない決定または命令に対して,憲法問題などを理由に,最高裁判所へ申し立てる上訴」(ことばバンク)であって特別の考慮を行うに足る十分な理由があることが要件になっています。

そして、最高裁は「その考慮を行うから執行を条件付き(=1億円供託)で停止する」としたのです。

非常にイレギュラーな形になりました。日本は三権分立ですから「政府は裁判の過程に介入できない」と説明しているようです。しかし、この問題は2007年に元公安調査庁長官であった緒方重威氏の会社に不動産所有権が動いていたなど当初から非常にグレーな動きで競売の落札先も鹿児島の寺からモンゴル企業といかにも胡散臭い奇妙な動きを見せていました。

ここにきて日朝局長級会談で両国間の対話が進み始め、拉致被害者の調査再開の約束を取り付けるなど両国間の関係が急速に改善してきたことは6月2日のこのブログで既報の通りです。そしてそのブログの中で総連ビルに関して私はこう記述しています。

「今回の日朝局長級協議において聞こえてこない最大の話題はマルナカによる朝鮮総連中央本部の取得問題。北朝鮮側が最も譲歩を求めているのは「在日北朝鮮大使館」の維持でありますが、記事にならないところを見ると何かありそうな気がします。想像ですが当面、マルナカは(政治的意図を背景に)自発的に北朝鮮への賃貸し継続をするのではないかと思います。少なくとも退去を迫ることはないと読んでいます。」

本日の日経によれば、「総連中央本部の競売について、北朝鮮側が日本人拉致被害者の安否調査などの日朝合意に含まれると主張している」としており、本件はいわゆる政治問題のど真ん中に鎮座する形となっているのです。朝鮮総連が事実上の在日本北朝鮮大使館であることから本質的にはマルナカに22億円程度で売却されるような金銭で片付く問題ではないのでしょう。

しかし、今回の最高裁の決定は一定の考慮が働いたと考える方が自然かもしれません。それがどのような考慮だったかは根拠があるわけではないのですが、「特別抗告」という定義からすれば裁判所が無理にそれをこじつけたように思えます。いわゆる警察の別件逮捕のようなものでしょうか?

マルナカは最終的に総連ビルを取得できたとしても再開発はできない可能性があります。理由は政治問題化すれば当局が工事の許可を出さないからです。役所としては理不尽な理由をつければよいだけですのでさほど難しくないはずです。私が前回のブログでマルナカが大家として賃貸し続けると言ったのはそこにあります。

もう一つの方法としては一旦マルナカに所有権を移し、北朝鮮の息がかかる第三者に正当な不動産取引を行えばよいだけの話です。つまりマルナカが結果的にダミーになるということです。これならだれの腹も痛みません。今は対裁判所という手続き論があるからいろいろ複雑になってしまうのであります。

裁判所は独立した司法権を汚さず、かつ、局長級会談が再びセットされようとしている中で政治、外交を含めた微妙な時期に当たっていることを考慮し、特別抗告の判断を下す時間稼ぎととらえられる可能性もあるでしょう。

個人的には朝鮮総連がなくなることはないだろうと思っています。それにしてもこのニュースはなにか奥深い、しっくりこないものを感じないわけにはいきません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年6月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。