きのうの言論アリーナのテーマは農業改革。経済産業研究所の元同僚の山下一仁さんと話したのだが、本題とちょっと違うところでおもしろかったのは、戦後の農地改革の話だった。
GHQは不在地主が日本を「封建社会」にして軍国主義を育てたと考え、農地改革で小作人に農地を分割したが、これによって社会党の中核だった農民組合は攻撃目標を失い、農村は急速に保守化した。マッカーサーはこれを共産主義に対する防波堤に使おうと考えて、細分化された農地の売買を原則禁止する農地法をつくるよう命じた。
これに対して地主を基盤とする自由党は反対し、農業の大規模化をしようとした農林省も反対したが、吉田内閣の池田勇人蔵相は保守の支持基盤ができると考え、マッカーサーに賛成した。この結果、小規模な農業が固定され、これを組織した農協が自民党の集票基盤になった。つまり自民党はイギリスの保守党のような大地主の党ではなく、小農の党として生まれたのだ。
これは日本の政治に大きな影響を与えた。最近の経済史研究でわかってきたように、資本主義を生んだのは「産業革命」ではなく、地主や貴族などのジェントルマンの海外植民地による資本蓄積であり、小作農は労働者となって都市に出て行った。これに対してフランス革命で農地を分割したフランスは産業化に出遅れ、いまだに農民の政治力が強い。
日本は戦後、アメリカ型の資本主義を導入したが、農地改革と財閥解体で資本家がいなくなったため、個人の預金を低利で集めた銀行が資本を供給し、サラリーマン経営者が企業の残余コントロール権を握る日本型資本主義が成立した。このシステムを守るために「持ち合い」などのしくみができ、資本市場が機能しない。
ニューズウィークでも書いたように、日本の潜在成長率を制約している最大の要因は、この資本市場の機能不全だが、政治家は問題の所在にも気づかない。きのう出た成長戦略でも、「資本市場改革」と称してGPIFによる株価操作をあげているありさまだ。ROEがアメリカの1/3という数字は、日本には資本主義が存在しないことを示している。政治的にも、イギリスの保守党やアメリカの共和党のような資本家の党がないので、政策の対立軸ができない。
もちろん資本主義には功罪両面がある。農協に代表される国家社会主義が、戦後日本の平等社会をつくることに貢献した面もある。しかし今グローバル化に直面する日本に必要なのは、世界で闘える孫正義氏や柳井正氏のような資本家であり、撲滅すべきなのは農水省や経産省のような国家社会主義の亡霊である。