金融の社会的機能は、経済活動に伴って生起する資金需要に対して、適切な時に、適切な方法で、適当、まさに適切な金額という意味での適当な資金を供給することである。今日の金融にとって、この自明な原点の理念への回帰が重要なのである。
なぜ、今、原点への回帰が必要なのかというと、いかに金融市場の整備が行われ、いかに高度な金融技術が導入され、いかに規制を充実させたとしても、必ずしも、金融の社会的機能が強化されるわけでもないことが、明らかになったからである。
さて、表題のオポチュニティーは、opportunityであって、普通は、投資機会というものである。しかし、ここでは敢えて、オポチュニティーという用語に、特別な意味を与えたいと思う。金融の社会的機能のなかでも、特に、「適切な時に」というところに重みをおいたのが、オポチュニティーであると。
平たくいってしまえば、一時的な、しかしながら切実な資金需要というものがあって、追加的な資金コストを払ってでも調達する合理性があるとき、その需要に対して資金を供給すると、追加的な資金コスト、即ちプレミアムpremiumが得られる、このプレミアムを取れる状況を、オポチュニティーというのだ。
優良な企業でも、ときどき、疲れたり、急いだり、風邪をひいたり、事故にあったりする。普通の企業なら、なおさらである。そういうときは、一般に、何らかの資金調達をしなければならないが、状況が普通でないので、簡単には銀行から借りられない。
だから、銀行以外の資金の供給者にプレミアムを払ってでも、代替的な資金調達手法を工夫する。投資家として、そのプレミアムは、頂いたほうが得であるし、そのことで、銀行が果たせない社会的意義も果たせる。ただ、それだけのことである。それが、オポチュニティーである。
ただ、それだけのことなのだが、現実には、オポチュニティーを適切に捉えることは、簡単ではない。それはそうであろう、簡単に銀行から借りられないということは、銀行を信じる限り、貸してはいけない先だということでもあるからだ。
しかし、企業の事情ではなくて、銀行側の事情で貸せないのならば、話は違う。オポチュニティーというのは、実は、銀行が貸したいのに貸せないとき、資本規制等の現代の複雑な金融規制の制約のなかで貸しにくいときに生じるのだ。当たり前だが、このような真のオポチュニティーを発掘するのは簡単ではない。難しいからこそ、オポチュニティーにはプレミアムがあるのだ。簡単でおいしい投資など、あり得ないのだ。
森本紀行
HCアセットマネジメント株式会社 代表取締役社長
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