イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)議長、就任2回目の旧ハンフリー・ホーキンス証言を15—16日に行う運びとなりました。半期に一度の経済・金融政策の証言で、どのような道筋を示すのか注目ですね。ちなみに前回の内容はこちらをご笑覧下さい。
イエレン議長といえば、金融政策を見極める上で9つの労働指標を注視していると言われています。はい、運転席の正面にある計測・分析機などを搭載する「ダッシュボード」でお馴染みですね。リセッション前の数字に戻らない限り、第1弾の利上げを手控える見通しです。
上半期が終了して、「イエレン・ダッシュボード」にある各指標はどこまで改善してきたのでしょうか?
米雇用統計(6月分の数字)
1)非農業部門就労者数(NFP)—採点 ○
6月は28.8万人増、3ヵ月平均は27.2万人増と2012年3月以来、12ヵ月平均は20.8万人増と2006年5月以来の高水準。
2)失業率—採点 △
6月は6.1%と2008年9月以来の低水準で6月時点のFOMCメンバーによる2014年末の予想レンジ上限、2007年12月は5.0%
3)労働参加率—採点 ×
6月は62.8%、3ヵ月連続で1975年以来の低水準。
4)長期失業者の割合—採点 ×
6月は308.1万人と前月の337.4万人から減少、労働人口における割合は6月に2.17%と5月の2.22%から低下。ただしリセッション前は2%割れ水準。失業者に占める割合は6月に32.5%と5月の34.4%から低下。リセッション前のピークは26%、2007年12月は17.4%。
5)広義失業率(パートタイムを余儀なくされているフルタイム希望者を含む)—採点 ×
6月は12.1%、前月の12.2%から低下し2008年10月以来の12%割れが接近。2007年12月は8.8%。
雇用動態調査(JOLT、5月分の数字)
6)求人率—採点 ○
6月は3.5%、5月の3.4%から上昇。件数ベースでは、求人数が前月比3.8%増の463.5万人と前月の446.9万人(445.5万人から上方修正)を超えただけでなく、景気後退以前にあたる2007年6月以来の高水準を達成。
7)退職率—採点 ×
5月の退職率は4ヵ月連続で1.8%と、過去5年間で最高の水準
辞表を提出するには、まだ勇気がいるんです。
8)解雇率—採点 ○
5月は1.1%、足元の1.2%から低下し2007年12月の1.3%以下に。定年や自己都合による退職を除く5月の解雇者も約158万人と
9)新規採用率—採点 ×
5月は3.4%と、4月の3.5%から低下。新規採用人数は1.1%減の471.8万人となり、
上半期末時点でクリアした項目は3個、不合格は5個。失業率は加速度をつけて低下中でFOMCメンバー予想のレンジに入ってきたとはいえ労働参加率の一助もあって△の評価としておきました。
8日に発表された米5月雇用動態調査(JOLT)の結果に対し、エコノミストの見解は以下の通りです。
バークレイズのクーパー・ヒューズ米エコノミスト
「求人倍率は、失業率の平均が5.4%だった2002~06年平均の2.18倍を下回っている。『労働市場のたるみ』は解消されつつあると考えられ、賃金の伸びは過去のサイクルより加速する可能性がある」
JPモルガンのマイケル・フェローリ米主席エコノミスト
「求人数がリセッション前の高水準を回復する一方で、採用人数は伸び悩んでいる。リセッションを経て求人と新規採用動向を計るビバレッジ・カーブが右上シフト(失業率は上昇)した背景は、1)緊急失業保険給付の影響、2)景気回復の初期段階での現象──などが挙げられた。しかし現状では緊急失業保険の給付は終了し景気回復は初期段階でもなく失業率も低下中で、足元の求人と採用のミスマッチは見捨てておけない」
イエレン・ダッシュボードの項目別で改善がまちまちなだけに、米5月雇用動態調査への評価も分かれています。イエレンFRB議長が指摘する「労働市場のたるみ」も残ってますし、やっぱり低金利政策は少なくとも市場の大勢が予想するように2015年半ばまでは続きそうですね。ちなみにバークレイズは「2015年6月」、JPモルガンは「2015年7-9月期」の利上げシナリオを描いております。
編集部より:この記事は安田佐和子氏のブログ「MY BIG APPLE – NEW YORK -」2014年7月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった安田氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はMY BIG APPLE – NEW YORK –をご覧ください。