日経新聞の新特集「革新力 The Company」の第一回目はセブン&アイホールディングスの鈴木敏文会長。実は日経ビジネスでも6月16日号で同社を大特集しており、嫌でも目についてしまいます。
しかし、その記事を通じた私の第一印象は正に支配力であります。記事にもあるように一部では「鈴木会長を神のように祭り上げている。社員がロボットのようにトップに言われたことを加盟店に実行させようとする雰囲気は異様だ」という言葉がその社風を表しているでしょう。
日経新聞の記事にある「新商品の試食はしょっちゅうする。この前はラーメンだったけど正直おいしくなかった。担当はこの味は去年よく売れたという。ちょっと待て、去年と今年は違うよと。」とあります。日経ビジネスには、昨年「金の麺 塩味」の役員試食会で「しょっぱくないか」という鈴木会長の一言で発売直前の同ラーメンが廃棄処分、6000万円の損失が発生したとあります。外の目から見ると必ずしも腑に落ちないこともあるのです。
いわゆるカリスマについていくというのは日本人が比較的好きな行為だと思います。しかもその剛腕度が鮮烈であればあるほどむしろ、神聖化する傾向があるのはあながち間違ってはいないはずです。事実、カリスマ性を持つ経営者、例えば柳井正、孫正義、鈴木修、永守重信氏などなど社会から批判の声がある一方で神を守る親衛隊ががっちり固めるという組織体がそこに存在します。
私はこの体系について日本の戦国武将を重ねてみることがあります。民はより強い殿様についていくことがしばしばありましたが強さとはその場合は戦に勝つこと、そして現代においては売り上げ、利益で勝ち抜くことであります。ではそのカリスマ武将は全てにおいて正しい判断をしているかといえばそんなことはありません。結構間違えることも多いのですが社員を一方向にがっちりスクラムを組ませ、爆発的な力で突破する空気を作り上げるのがうまいことに間違えはありません。
「10人中8人が美味しいという商品ではセブンゴールドとして失格だ。10人中10人が声をそろえて美味しいという商品でないといけない。」という鈴木会長の発言はもはや別世界にあると言ってよいでしょう。美味しいという定義がないことに対してメンタルで抑え込む戦略とも取れます。勿論、年間18億7600万個も売れるおにぎりを相手に喧嘩を売るつもりはありません。が、この経営は一種のマクドナルド方式と言ってもよいのです。
北米に於けるマックは今でも圧倒的存在ですが、なぜかといえば「そこに行けばあの味がある」であってそれは美味しいというより「失望させない味」と言った方がよいのです。コンサバな人が多い東部カナダでは知らない街でランチを取るのに下手な店で変な挑戦をするよりがっかりさせないことが大事であるわけです。
つまり、セブンイレブンのおにぎりの攻略方法とは10人のうち6人が評価するとんがったものを作り出せばよいということであります。カナダでチェーン店がそっぽを向かれ始めたのはいつでもどこでも同じ味で特徴がないという表裏一体の評価に変わってきていることに注目すべきです。
カリスマの弱点とはその支配力が及ばなくなった時、ガラガラと音を立てて崩れることでしょう。多くのカリスマ経営者が後継者選びで悩んでいますがまさに本人たちにそれが分かっているからなのであります。
私がお仕えしたカリスマ経営者が私にぼそっと「考えない社員ばかりだ」と嘆いたのをよく覚えています。カリスマ性があればあるほど社員は判断力をなくします。当時副社長以下ほとんどの役員は「お上が決めるから自分たちは事実を漏れなく伝えること」という姿勢であり、「お上を信じていれば大丈夫」という雰囲気だったことには愕然とした気持ちがありました。そしてこの会社はお上が病気で倒れた時から一気に下り坂となり倒産に繋がりました。
そういえばサムスンの第2四半期の決算が予想を大幅に下回り下落に拍車がかかっていると報道されています。この会社も李健熙会長というカリスマが育て、けん引してきたのですが、急性心筋梗塞で倒れた頃と時を同じくして同社にやや陰りが出てきたことは偶然の一致でしょうか?
セブン&アイという巨大組織に盲点があるとすればそこにあります。そしてソニーやパナソニックという会社の凋落ぶりはかつての名経営者の神聖化が時代への変化力に対抗できなかったともいえるのではないでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月9日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。