このごろ「日本の国際競争力が落ちた」という話をよく聞きます。たとえば円安になったのに貿易赤字が増えたとか、モバイル端末で日本の会社がボロ負けしているとかいう話です。これについて、昔ポール・クルーグマンは「競争力という危険な妄想」という論文を書いて批判しました。
たしかに会社に競争力はあっても、国に競争力はありません。それをゼロサムゲームのようにあおって「戦略的貿易政策」を提唱したのが、かつてのクルーグマンでした(彼は立場によっていうことが変わるのです)。そういう政治的プロパガンダは日本の没落とともに忘れられたのですが、どこの国に立地するかは競争力に影響します。
たとえば自動車をつくるのに、日本に工場を建てるのとアフガニスタンに工場を建てるのでは条件はまったく違います(というかアフガニスタンには建てられない)。こういう立地条件の違いは大きいので、これを国際競争力と考えれば、日本の競争力は世界的にはまだ高い。それが生活水準の高さを支えてきました。
しかし、いわゆるリーマンショック以後の5年で、この条件は大きく変わりました。立地条件を数字であらわしたのが交易条件です。これは輸出物価/輸入物価の比で、輸出品の代金でどれぐらい輸入品が買えるかを示しています。これが大きいと輸出品が高く売れるので日本の会社の国際競争力は強く、これが小さいと競争で不利になります。
日本の交易条件(2010年=100)出所:日本銀行
交易条件をあらわしたのが、上の図です。2010年を基準にすると、この5年で115から85まで30%ぐらい下がっています。この大きな原因は輸入物価、特にエネルギー価格が上がったことです。リーマンショックのあと原油価格は2.5倍になり、さらに安倍政権になってから、ドルが25%も上がりました。2.5×1.25=3.125なので、円ベースの原油価格は3倍以上になったわけです。
おまけに民主党政権が原発を止めてLNG(液化天然ガス)の輸入を増やしたため、2011年以降、10兆円以上もよけいに輸入代金を払いました。おかげで、エネルギー価格や電気代が2割ぐらい上がったことがコストアップの原因です。図をみればわかるように、エネルギー価格が上がって国際競争力が落ちたのです。これが円安で貿易赤字の増えた原因です。
よい子のみなさんにはわかりにくいと思いますが、要するにみなさんのお金で買える世界の品物が、ここ5年で3割へったのです。工場やお店のコストも上がったので、その影響が出てきてインフレになっていますが、景気が悪いので給料は上がりません。政府は喜んでいますが、会社も消費者も困っています。
では、どうすればいいんでしょうか? これは複雑な問題なので、簡単な解決策はありませんが、まず法律で決まったとおり原発を運転して、余計なLNGの輸入を止めることが第一でしょう。甘利大臣は「このまま放置すると電気代が5割上がる」などと他人事のように言っていますが、それを止めるのは政府の仕事なのです。