費用対効果って何?

池田 信夫

よい子のみなさんでも「コスパ」という言葉を聞いたことがあるでしょう。「この店のケーキは安いけどおいしいので、コスパがいい」などと使います。これは「コスト・パフォーマンス」の略で、日本語に訳すと「費用対効果」です。これは経済問題を考えるとき大事な考え方です。


たとえば中西準子さんの話では、1ミリシーベルト/年まで除染をすると、1人5000万円かかるそうです。被災地全体で2兆円以上かかるのですが、その効果はほとんどありません。1ミリシーベルトというのは普通の日本人が1年間にあびる自然放射線の半分ぐらいだから、除染のコスパはとても悪いのです。

原発のリスクも同じです。これから東日本大震災とまったく同じ大地震が同じ条件で起きたら、どうなるでしょうか。津波で1万5000人以上が亡くなり、原発事故の被害はゼロでしょう。だから被害を減らすためにまずやるべきなのは、原発事故の対策ではなく津波対策です。

たとえば静岡県の浜岡原発では、高さ20メートルの津波を想定して、1400億円かけて防波壁を建設していますが、原発には3重の防水工事が行なわれているので、たとえ津波をかぶっても何も起こらないでしょう。これに対して、原発以外の町はどうでしょうか。

キャプチャ

地図を見ればわかるように、浜岡原発の前1.6キロをのぞく御前崎市の堤防の高さは数メートルなので、もし20メートルの津波が来たら、御前崎市は完全に水没します。原発の敷地内は大丈夫ですが、それ以外の町では東日本大震災のような被害が出るでしょう。御前崎市の人口は3万3000人なので、そのうち2万人ぐらい死ぬのではないでしょうか。

静岡県で近いうちに起こるといわれている東海地震では、20メートルもの津波は想定していませんが、どう考えても原発事故の被害より津波の被害のほうが大きい。浜岡原発の防波壁に1400億円かけても犠牲者は減りませんが、同じお金を御前崎市の津波対策にかければ被害は確実に減ります。特定の災害だけに大きなお金をかけるより、災害全体の対策にかけるほうがコスパが高いのです。

実は防波壁のコストよりはるかに大きいのは、原発を止めているコストです。浜岡原発を止めてカタールからLNG(液化天然ガス)を輸入しているおかげで、中部電力は毎年3000億円ぐらい余分にコストがかかっています。もう1兆円ぐらい損したことになります。原発を動かす代わりに、その利益の一部を静岡県の防災対策に当ててはどうでしょうか。

東日本大震災であれほど大きな犠牲を出したのに、政府はその教訓に学んでいないようにみえます。これからも大地震は確実に起こります。それによって最大の被害が出るのは原発ではなく、建物の倒壊と津波による浸水です。政府は災害全体のリスクを最小化する、費用対効果の高い防災対策を考えてほしいものです。