東証は個人投資家を育成したくないのか --- 岡本 裕明

アゴラ

日本人は元来、投資より貯金が好きであるとされています。また、バブルの頃、いい気になって株式市場にお金を突っ込んだもののその後、長い塩漬けで株はもう嫌、という声もずいぶん聞こえたものです。ところが、数年前からお金ときちんと向き合うという風潮が出てきた中で投資が再び脚光を浴びてきました。歴史的に「お金にお金を稼がせる」ということが必ずしも美徳ではないとされてきたことに見直し機運がでてきたこともあるのでしょう。


80年代バブルに株式をやっていた人は既に50代半ば以上となってきており、その後は「株価は下がるもの」という弱気が市場の主流で成す手はなかったわけです。ところが日本版401KやNISAを通じて株式市場との接点が増えた上にアベノミクスで2012年末からぐんぐん株価が上昇したことで多くの個人投資家の新規参入が増えました。

ところが株式市場ではコンピューターと外国のプロ集団というツワモノが市場を制している中で個人投資家が美味しい思いをできるところはさほどでもないと感じている人も多いはずです。なぜならば株式投資において一時の「戦勝金」を獲得する人は多いのですが、継続して、安定して稼ぐ人は実に少ないからであります。理由は簡単です。

ある時10万円の利益を確保した人の行動は二匹目のドジョウを狙って再び株を買うケースが多いでしょう(カジノで勝ったら続けて勝負をするようなものでしょう)。ところが株価はうねります。いつまでも上がり続ける株などまずありません。結果として何時か持ち株は下がりだし、含み損となるのです。そうなると心理として損をしたという悔しさの反面、取り返すために新たに株式市場に投入する資金が足りないことに気がつくはずです。あるいは奥様に損をしたことに叱責されて手が出せないという方もいるでしょう。

これは資金が限定されている個人投資家の場合、勝ち続けない場合、損切をしない限り次のステップに入れず、安定して儲けことが難しいことを意味します。要は個人投資家の最大の弱みは資金力なのです。A銘柄がダメでもB銘柄に投資する余力がないわけです。

ところが機関投資家やファンド筋は巨額の資金を動かします。それこそ1円抜きでも多額の利益を確保できる仕組みになっています。ここで気がつくと思いますが、株価は何%上がった、下がったというよりノッチ(刻み目)が動くことで収益を上げることができるのです。これが私の思う今回の東証の10銭刻みの問題点なのです。

政府は個人投資家の育成を考えています。ところが東証は個人投資家ではなく、機関投資家やファンドを通じた市場規模を追求しているのです。明らかに向いている方向が違います。私がチェックしているいくつかの個人投資家向けの専門情報やメルマガでも今回の動きは明らかに懐疑的、ないし批判的スタンスにあります。

東証が今回導入したのはごく一部の主要銘柄だけで実際には実験的要素が含まれていると思います。そして東証の期待通り例えば最も注目されたみずほ銀行の株式は初日の出来高は4倍に膨れ上がっています。これが意味することは東証としては思惑通り、ということになります。ところが値動きは199円20銭から201円10銭となり日経平均の動きに対して小幅な動きに終始してしまったのです。

これでは株価形成そのものにもバイアスがかかってくることも否めません。東証が今回の10銭刻みを導入するきっかけは海外のファンドなどから刻みが大きいため値動きが大きすぎるという「クレーム」が出たからとされています。私はこれは表向きで海外勢は刻みを小さくして稼ぎやすい機会をつくることが目的だったと考えています。いかんせん、市場規模の過半数は海外からの資金となってしまった東証は外圧に屈したと言われかねません。

多分ですが、個人投資家は新興市場と小型株により傾注していく可能性があります。つまり、市場の二分化です。

これが日本人に投資を教育していくはずの現場だと思うと日本の投資環境は後退したと言わざるを得ません。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年7月23日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。