異次元緩和の「偽薬効果」は消えた

池田 信夫

6月の消費者物価指数が発表された。4月以降は消費税の増税分2%が含まれているので、それを除くと、コアCPI(生鮮食品を除く総合)とコアコアCPI(食料・エネルギーを除く総合)の前年比上昇率は、次のようになる。

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消費者物価上昇率(前年比)出所:総務省


何が起こったかは、もう明白だろう。昨年後半から今年初めにかけては、公共事業や消費増税前の駆け込み需要でコアコアCPIが上がったが、春から大きく落ち込んだ。それを埋めたのは、原油価格や電気代などのエネルギー物価上昇だった。

今コアCPI上昇率が鈍化しているのは、原油価格が落ち着いているからだ。黒田総裁にとっては困ったことかもしれないが、深刻なエネルギー制約に直面している日本経済にとっては結構なことだ。異次元緩和の効果を示すコアコアCPIは0.3%しか上昇していない。「CPI2%に首を賭ける」と宣言した岩田副総裁は、首を洗っておいたほうがいい。

このようなコストプッシュ・インフレは、個人にとっては生活費の上昇、企業にとってはコスト上昇で、いいことは何一つない。貿易赤字の最大の原因もこれだ。日銀は「需給ギャップがゼロになった」と喜んでいるが、これは需要が増えたのではなく、供給が減ってギャップがなくなったのであって、潜在成長率はほぼゼロだ。

公平に見て、安倍首相と黒田総裁の打った芝居は予想以上の効果を上げ、日本株に無関心だった海外ファンドが日本株を買うようになった効果は評価されていい。しかし株価上昇で投資が増え、それによって内需が拡大して賃金が上がる…という好循環は生まれなかった。安倍首相が政治的に厄介な原発に手をつけないで、口先だけの「成長戦略」でお茶を濁しているからだ。

要するに異次元緩和から1年あまりたって、その偽薬効果は消え、エネルギーと人口減少のボトルネックだけが残ったのだ。これから可能な最強の成長戦略は、原発を正常化してエネルギー価格を下げる政策である。

追記:今年1~6月の貿易赤字は、前年同期に比べて58%増え、史上最大の7.6兆円にのぼった。このままでは外需が大幅なマイナスになり、景気が悪化するおそれが強い。