東京オリンピックと情報インフラ --- 中村 伊知哉

アゴラ

53歳になるぼくの最初の記憶は、東京五輪の聖火ランナーです。テレビではありません。広い道路を走る人を肉眼で見ながら旗を振ったんです。前回の五輪はメディアの整備よりも新幹線や高速道路、物流と交通のネットワーク整備に力が注がれました。工業社会まっしぐらでした。

次の五輪は情報社会まっただ中で開かれます。国際都市で催されます。しかも開発型の五輪の次は、成熟型の五輪でなければなりません。安全で落ち着いた成熟国家が国際社会に対して示すモデルとなる情報インフラが欲しい。


前回の五輪の頃からテレビと電話の整備に拍車がかかりました。1980年代中盤にはアナログの全国網が整備され、通信自由化や放送メディアの多様化が進みました。90年代に入ると、それらが一斉にデジタル化に向かいました。パソコンやケータイが普及し、ネットと地デジが整備されました。

最近またそれらがリニューアルされています。スマホやタブレット、サイネージへと「マルチスクリーン化」が進み、コンテンツは海外のネット企業が配信し、LINEやFacebookなどのソーシャルメディアが新しいコミュニティを生んでいます。

デジタルサイネージも屋外の広告看板にとどまらず、被災地の情報共有に使われたり、家のタブレットにニュースを届けたりするなど、多様な姿をもつネットワーク・メディアへと進化しています。

既に日本はデジタルネットワークの面では世界最先端です。でも、課題もあります。まずwifi。世界中のかたがたをもてなすには、東京のいたるところで無線ブロードバンドが使えるように準備しておきたい。

そして放送の電波の利用。地デジは整備されましたが、デジタルでキレイにはなっても、さほどベンリにはなっていません。便利で楽しいサービスはネットが提供しています。デジタル放送の電波を使って新しいサービスが提供されるのはこれからが本番。

超高精細映像の4Kや8Kの普及が期待されています。テレビもサイネージも含め、通信網も放送網も合わせて、次世代の映像サービスが利用できるようにしたい。さらに、この夏には放送にネット技術を組み合わせた「マルチメディア放送」も始まります。「スマート」なサービスの発展が期待されます。

五輪のころにはもう通信も放送も関係なく、街中のサイネージが世界からのお客さまをもてなし、持ち込まれたスマホで全競技の中継が見られるようになるでしょう。そうすべきでしょう。そのためには準備することも多い。

このような考え方から今年2月、ぼくが代表を務める「デジタルサイネージコンソーシアム」は、2020年の東京オリンピックに向け、提言を発出しました。メディア整備と、そのための措置の2点です。

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1 メディア整備
  2020年東京オリンピックに向け、下記メディアの整備を図るべきである。

 1) 4K8Kパブリックビューイング
 学校、郵便局等全国の公共空間及び海外の計数万箇所に、4K8Kによるパブリックビューイング拠点を設ける。地域における防災情報機能も具備する。

 2) おもてなしサイネージ
  都内の公共空間・商業施設等1,000箇所に、英中韓3カ国語による対話式の案内表示を設ける。

 3) マルチスクリーン連携
  TV、スマホ・タブレット及びデジタルサイネージが放送及びインターネットと連動し、全ての端末で全競技が試聴でき、コマース連動もできる環境を全国に整備する。

 4) サイネージビッグデータ
  顔認証機能などを通じデジタルサイネージから得られる統計データを収集・分析・連携してビッグデータとして活用する。

2 措置
 上記のため、政府及び東京都は、下記の措置を講ずるべきである。

 1) 表示規制緩和
  都内のバス停など公共空間・公共施設におけるデジタルサイネージの設置規制を緩和する。
 
 2) 実証実験
  パブリックビュー及びマルチスクリーンに対する多言語コンテンツ配信、防災機能強化、ビッグデータ利用に向けた実証実験を行う。
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世界中の人たちと多言語パブリックビューイングで楽しみながら、手元のスマホで応援メッセージを発したり、選手の使っているスポーツグッズを買ったり、ソーシャルメディアでつながってパーティーに繰り出したり。ワクワクして、だけどどこよりも安全なトーキョー、そしてニッポンを演出してほしい。
 
五輪に向け、新しいプロジェクトが始まります。東京都港区、竹芝地区の都有地を再開発し、コンテンツ産業集積地を形成するものです。地上26階地下2階のビルを建設、その中にコンテンツやITに関する研究開発・人材育成、国際産業支援のための拠点として7600㎡を用意し、ラボ、ホール、スタジオ、オフィス等を構築する計画。オープンは2019年。

これを実現するため、ぼくが代表となり、推進母体となる協議会を形成べく動き始めました。関心のある企業、研究・教育機関、官庁などと相談し、グランドデザインしていきます。国際的なデジタルのショーケースとなり、五輪後もインフラとして活躍する場にしたいと考えています。


編集部より:このブログは「中村伊知哉氏のブログ」2014年7月28日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はIchiya Nakamuraをご覧ください。