機会費用って何?

池田 信夫

世の中には、目に見えるコストと見えないコストがあります。たとえばみなさんが東京から横浜まで行くとき、300円の電車賃がもったいないといって2時間かけて歩いて行くと、時間が無駄になります。時給800円で2時間はたらくと1600円だから、300円の電車賃を節約するために1600円のコストをかけたことになります。こういう見えないコストを機会費用といいます。

「原発を動かす前に避難計画が必要だ」などといって、いつまでも運転を延期しているのも、コストがかかっていないようにみえますが、今年上半期のLNG(液化天然ガス)輸入額は3.9兆円。この輸入量は、震災前の1.5倍です。つまり1.3兆円は原発を止めているために輸入したLNGですから、1日70億円のLNGを余分に輸入していることになります。これが原発停止の機会費用です。

つまり原発を動かさないコストが毎日70億円かかっているわけです。これは目に見えませんが、いずれ電気代に上乗せされます。北海道電力は約2割の値上げを申請しましたが、東電も同じぐらい上がるでしょう。すでに原油高とドル高で震災前に比べて37%上がっているので、合計60%近く電気代が上がります。今は柏崎刈羽原発が動くことにして、値上げ幅をごまかしているのです。

値上げ申請が出てきてから「値上げ反対」という人がいますが、それは無理です。これ以上の値上げを止めるには、原発を動かすしかありません。原発を止めたまま値上げしないと、電力会社は倒産して電力が供給できなくなります。

このようにいやなコストを負担しないで非現実的なきれいごとをいう人をフリーライダーといいます。彼らは「どんなにコストがかかってもいいからゼロリスクにしろ」といいますが、それは機会費用を認識していないからです。ただ乗りを防ぐには、彼らにきれいごとのコストを負担させるのが一番です。

たとえば北電の集金のおじさんが集金するとき、「お宅は原発の運転に反対ですか?」と質問し、反対の世帯の料金だけ値上げして脱原発料金を取るのです。そうすると、もし反対の人が半分いたら、標準家庭で約1100円/月の値上げ幅の2倍の2200円ぐらいを彼らが負担してくれるでしょう。しかし反対派が1割だったら、脱原発料金は1万円以上です。

このように脱原発の機会費用を認識すると、彼らの本当のコスト評価がわかります。「金より命だ」という人も、毎月1万円も電気代が上がるのはいやでしょう。おそらく機会費用を本当に認識したら、反対派はごくわずかでしょう。それが本当の責任ある世論です。

こういう機会費用を負担して原発に反対するのはかまいませんが、インフラにただ乗りして無責任なことをいっていると、何兆円もコストがかかって日本経済がめちゃくちゃになるのです。