よい子のみなさんは、小学校でも「日本は法治国家」と教わると思いますが、法治国家って何でしょうか。それは単に「法律で治める国」のことではありません。法律より強いルールのない国なのです。
これはちょっと不便です。たとえば安倍首相が集団的自衛権が行使できるように解釈を変えたいと思っても、憲法にはそう解釈できる条文がないので、反対する人がいます。「軍隊をもって軍事同盟を結びたいのなら憲法を改正してください」という憲法学者の意見は手続き論としては正しい。このように本当は法律と違うことをやったほうが都合がいい場合も、法律を変えるという手続きを踏むのが法治国家です。
なぜそんな面倒なことをするんでしょうか。それは法律の拡大解釈を認めると、国が権限を乱用して国民の権利を侵害するからです。たとえば原子力規制委員会は「われわれには原発の再稼動を認可する権限はない」と認めているのに、原発の運転を許可しません。これによって過去3年間に10兆円以上のお金が無駄になり、電力会社はつぶれかけています。
こういう財産権の侵害が起こらないように、法律という面倒な手続きを決めているのですが、菅直人さんは「お願い」だけで原発を止めててしまい、そのままなし崩しに全国の原発が止まったままです。
「法律より安全のほうが大事だ」と思う人もいるでしょう。そういう気持ちはもっともですが、法治国家では原発を止めたいのなら法律を改正しないといけないのです。法律で「新しい基準に合格するまで昔の原発を運転してはいけない」といった規定を設ければいいのです。なぜしないのでしょうか?
それは憲法違反だからです。憲法に違反する法律はつくれません。いま規制委員会のやっている審査は、2012年に改正された安全基準に合格しないと20年前や30年前に建てられた原発を動かしてはいけないというのです。こんな規制を認めたら、あした改正される法律で「きのうのお前の行動は違法だから逮捕する」といわれるかもしれません。そういう事後法は、憲法で禁止しています。
こういう権利侵害から国民を守ることが、法治国家のいちばん大事な役目です。お隣の中国は法治国家ではないので、今まで共産党のえらい人だと思っていた人が、ある日突然「わいろを取った極悪人だ」といって逮捕されたりします。法律の運用を決めるのは共産党なので、なんとでもなるのです。
だから政府が、法律に書いてないことをやってはいけません。安倍さんも集団的自衛権を使いたいのなら、憲法を改正して堂々とやるべきです。それに反対する憲法学者のみなさんも、自衛隊は憲法違反だというなら「自衛隊を禁止する」という憲法改正案を出せばいいのです。
法治国家の原則には、例外がありません。これは政府をしばるルールなので、法律を解釈できるのは裁判所だけです。憲法を大切にする憲法学者のみなさんは、事後法で権限を乱用している規制委員会にも、憲法の原則を適用してほしいものです。