こんにちは。フリーニュースディレクターの渡辺龍太です。今回は最近の労働環境に関するニュースから、色々と考えてみたいと思います。
まず気になったのは、北海道新聞のこのニュース。
「ブラック企業」学ぶ授業 道内の高校、大学「法律知って身守って」-北海道新聞[道内]
長時間労働などで社員を酷使する「ブラック企業」が社会問題化する中、社会に出る前の大学生、高校生に労働法令(ワークルール)を学んでもらう取り組みが道内でも広がっている。
ブラック企業で働いている人が、日本国内で働いている人の中で一番気の毒だというイメージがあるという人も多いでしょう。なので、そういった会社では働きたくはないという学生も多いらしく、この様な学生向けの労働法令の講座の需要が増えているとあります。
企業と労働者では、争いになったら企業の方が基本的に強い世の中です。なので、はじめからブラック企業に入社しない様にと学生が力を入れる気持ちは良くわかります。
ですが、恐ろしい事に、どんな事にも世の中には上には上があるようです。
先月、外国特派員協会でコンビニオーナーたちが、『フランチャイズ』というブラック企業より恐ろしい働き方を詳細に語ってくれました。コンビニの広告とはあまり関係のない、blogosに詳しく出ていました。
「労働条件はアルバイトのほうがいい」コンビニ店主たちが訴える過酷な「労働環境」 (1/2)
コンビニフランチャイズ契約が『偽装された雇用関係』であるということです。
(中略)
フランチャイズ本部と加盟店オーナーの間に圧倒的な力の差があり、それによって本来の経営者なら当然持っているはずの経営上の裁量が著しく制限されていることなどが分かってきました。
(中略)
ビジネスモデルが多様化・複雑化するにつれ、経営者と労働者の間のグレーゾーンで働く人たちが増えています。そのグレーゾーンで苦しんでいる人たちに、私たち連合がいかに向かい合うか。それがいま、問われていると思っています。 彼らが労働組合法上の労働者に当たるのかどうかは、労働委員会や司法が判断することになるでしょう。
もし仮にブラックな会社で働き始めてしまったとしても、法律は働いている人を『労働者』と認め、労働基準監督署などがある程度は守ってくれる姿勢を見せてはくれます。それに『潔くブラック企業を辞める!』という選択肢は常に残っています。
しかし、このコンビニオーナーの主張する、『偽装された雇用関係』だと事情が全く異なります。法律上、コンビニオーナーは労働者ではありません。それゆえ、法律で彼らが労働者の様に守られるという事は一切なく、労働基準監督署も動いてはくれません。なので、恐らく、こういったコンビニオーナーが取れる手段は3つしか無いでしょう。
裁判をして事実上の雇用契約で本当は労働者だと認めてもらう事
裁判をして経営上の裁量を認めてもらう事
コンビニビジネスから撤退する
悲しい事に、どの方法を取るにしてもお金がかかります。1、2は裁判費用を用意する必要があり、裁判の結果もどう転ぶかは分かりません。そして、3はコンビニオーナーはフランチャイズの加盟料金などを負担しているので、途中でのビジネスの撤退には何らかの金銭負担が発生するでしょう。ちなみに、セブンイレブンのHPによると、フランチャイズに加盟するには最低250万円は必要なようです。
フランチャイズ加盟条件と契約タイプ|セブンイレブンのフランチャイズ
blogosの記事のオーナーたちは、この三つの選択肢の中から1を選んだようです。結果的に労働者と裁判で認定されても、時間もお金も必要な訳で、オーナーたちの満足の行く結果になるかは疑問です。
このように、コンビニオーナーは弱い立場にも関わらず、行政や法律も守ってはくれず、撤退するのにもお金が必要となると、ブラック企業で働くよりもフランチャイズオーナーになる方が恐ろしい事の様に見えます。やはり、フランチャイズであってもビジネスオーナーになるというのは、それだけリスクの高い事なのでしょう。
では、法律上は有利になりそうだといって、コンビニFC本部はこの問題を無視出来るのでしょうか。それは決して無いと思います。
法律的に罰せられる心配が無さそうだからと、ブラック企業と言われている事を無視して突き進もうとした、ワタミなどの外食企業に注目してみましょう。そういった企業は、現在、軒並み人手不足や顧客離れで赤字に転落しています。
同じ様に、コンビニFC本部もこの問題を放置しておけば、コンビニオーナーになりたい人が集まらなかったり、顧客離れが起きるリスクは確実に存在していると言えるでしょう。
こういった労働環境に関するニュースを見ていると、日本社会では『契約』や『法律』というのが、十分に機能していないという事が見えてくると思います。現在ある労働関連の法律が厳密に運用されるだけで、ブラック企業は相当淘汰される事でしょう。また、今回のコンビニオーナーの訴えも、契約書に無い事を強要した側が罰せられる世の中なら、事態はここまで深刻化しなかったはずです。それにも関わらず、政府はそういう事にあまり関心が無いようです。
一般に、欧米は契約や法律を重視する社会と言われています。一方で、日本は『空気を読む』社会と言われています。今回の労働環境の問題も、本当なら日本でも欧米社会の様に政府が厳密に法律を運用する事によって解決して欲しい気がします。しかし、政治家は自分たちに影響力のある企業幹部たちの空気を読んで、決して率先して問題解決をしようとはしません。
なので、この問題が解決するという事があれば、それは企業があまり理不尽な事をすると利益が減るという『社会の空気』を読んだ時なんだと思います。そう考えると、現在、ブラック企業が赤字になるなど、社会はそんな空気になりつつある雰囲気があるので、ひょっとすると働き方問題の大幅な改善というのが起きる日も近いのかもしれませんね。
渡辺 龍太
WORLD REVIEW編集長
主にジャーナリスト・ラジオMCなどを行なっている
著書「思わず人に言いたくなる伝染病の話(長崎出版)」
連絡先:ryota7974アットマークgmail.com
Twitter @wr_ryota
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編集部より:この記事は渡辺龍太氏のブログ「ネットメディアプロデューサー 渡辺龍太のブログ」2014年8月15日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方はネットメディアプロデューサー 渡辺龍太のブログをご覧ください。