ジャクソンホールというアメリカ、ワイオミング州の片田舎の小さな町が世界からこれほど注目を集めるとはある意味、驚きであります。ボルガー元FRB議長がフライフィッシィングが好きだったことで1982年から開催されているこのシンポジウム。毎年この時期、主要国の中央銀行トップを始め、多くの金融関係者が集まるジャクソンホールでのアメリカFRB議長の講演は夏休みで市場関係者の大きなニュースへの飢えを満たし、秋以降の金融政策を占う前哨戦のような位置づけでしょうか。
今年の議長講演は22日午前10時からですからアメリカ時間金曜日の昼前にはその反応が市場を通じて見て取れるかと思います。今回の大きな注目点はアメリカの金利引き上げの時期を探るということかと思います。本日発表になった7月のFOMC議事録をみても全体の景気に関するトーンは前向きに感じられます。直前に発表された住宅市場の指標も悪くなく、イエレン議長の三つの心配のうち一つのストレスはやや緩和するのかもしれません。二つ目の心配であるインフレ率は目標である2%に着実に近づいています。ただ、残る一つの頭痛の種である労働市場の改善については失業率ではなく「労働市場の質の改善」をみており、賃金の動き、あるいはフルタイムとアルバイトの違いを含めた広範、且つトレンドとして判断していくものと思われます。
よって議長の見方は目先の指標が仮によく見えてもそれが本質的なのか数字のマジックなのか、体質改善が進んでいるのかなどかなり注意深く見ていくのだろうと思います。
ところが、市場というのは勝手な憶測をするものでこれら指標を基にアメリカの金利引き上げ時期がより早まるのではないかと考え始め、為替は明らかに米ドルが強含みになりつつあります。特にゴールドマンサックスのユーロ売りドル買い予想がそれに拍車をかけ、ユーロドルで見れば昨年9月以来のユーロ安ドル高となりつつあります。円ドルも同様で103円台半ばを伺うところになってきています。
ここで一つ頭に入れおきたいのはイギリスの金融政策の展開。イングランド銀行の政策会議で3年ぶりに金利について意見が割れ、9人の政策委員のうち2人が利上げを示唆したことに注目しています。これは同国の不動産価格の高騰、更には先進国では極めて好調な経済状況から金融緩和に別れを告げ、利上げするならイギリスがトップと思われている中、その兆候がまた一歩現実に近づいたということでしょう。
私はイエレン議長はドルという基軸通貨が与える影響は国内外にあることに視点を置き、極めて慎重な言葉選びをするかとみています。理由はユーロ圏の不調でしょう。特にドイツがマイナス成長になったことを受け、ECBとしては金融緩和の維持から拡大を考えなくてはいけないバイアスがかかる中、ドルの利上げムードが高まれば双方の通貨価値のバランスが崩れます。その際、過度なドル高は輸出に影響し、オバマ大統領が進めてきた企業のレパトリ(本国回帰)を通じて内需を高め、輸出する国に転換するにあたり、為替の位置づけは労働市場にも住宅市場にも当然影響するものであります。
金融緩和から利上げができるぐらいの健全な経済状態になるには個人的にはイギリスなりに先に利上げさせ、その影響を見極めたいという保守的な気持ちがあってもおかしくないとみています。また、自動車業界などでファイナンスを使ったミニバブルが生じている中、利上げが及ぼす影響は小さくないはずでここは慎重になるのではないでしょうか?
それとボトムラインとしては仮に利上げしたとしても0.25%が数回ある程度で金利が5%に届くような可能性は目先ないと考えています。理由は成熟国としてミドルクラスの大衆的底上げ消費の増大は起きにくいからであります。つまり、金利が上がっても幅は知れており、一昔前に比べればはるかに低い金利を今後も長期にわたって享受できると考えています。(個人的には新たなる産業革命や戦争、食糧問題など地球儀ベースの特殊な要因がなければほぼ永続的に続くとみています。これは日本と全く同じということであります。)
アメリカが本当に好景気を享受するとすれば、シェールオイルが安定的に産油され、国内の石油需要を満たし、実質的に自前主義が達成し得れば、製造コストの大幅低減が期待できますからアメリカの産業競争力は上がります。また、仮に輸出する際には産油コストにパイプライン等の敷設コスト、更に輸出関税をかければ財政問題が大きく解決する秘策もあります。
つまり、アメリカの本当のリカバリーはもう少し先になるとみており、今はまだ、基礎固めをしておいた方がよさそうな気がいたします。ハト派のイエレン議長、多分、市場の期待に対してすっとかわす気がしてなりませんがさてどうなることでしょうか?
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月21日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。