財務相が突然辞任する国 --- 長谷川 良

アゴラ

オーストリアのシュビンデルエッガー財務相(副首相兼任)は8月26日午前9時、「今日をもって副首相、財務相、そして国民党党首の3つの公職から辞任する」と表明した。同相の辞任表明に連立政権の社会民主党と国民党関係者からも驚きをもって受け取られた。ファイマン首相(社民党党首)は「驚いている」と正直に語っている。国民党関係者も慌てて国民党本部に集まり、情報を収集していたほどだ。

▲オーストリア国民議会(2012年5月撮影)


財務相は辞任理由を「職務に対して国民党内で支持が十分に得られなかった」と説明している。具体的には、財務相の税政策に対して、所得税の軽減を求める声が党内で高まる一方、富裕者税の導入を求める声が連立政権の社民党関係者から日増しに強まっていた。それに対し、財務相は「国家の財政を健全化することが最優先される。税の軽減は早くても2016年以降だ」と応じてきた。そのため、国民党内からも財務相の政策に批判が上がる一方、社民党からは「財務相は裕福な国民を重視している」といった反発が絶えなかった。

財務相は「次の世代に大きな債務を残してはならない。財政の節約が重要だ」との姿勢を最後まで崩さず、早朝招集した辞任記者会見を6分余りで閉じている。

国民党は同日夜、党緊急幹部会を招集してミッターレーナー経済相を国民党党首に任命することを決めたが、財務相は来月初めに決めることになったという。党内では「一人が党首、財務相、副首相をを占めるのはよくない。特に、欧州経済の健全化の重責を担う財務相は激務だ」という声が支配的だ。

野党第1党の極右政党「自由党」は「連立政権の財政政策は暗礁に乗り出したのだから、議会を解散して早期総選挙を実施すべきだ」と主張しているが、与党を含む他の政党は早期総選挙の実施には消極的だ。同国のメディアによれば、支持率で自由党がトップを走り与党2党が後塵を拝しているといった状況だ。社民党と国民党の2党ではもはや議会の過半数を占めることができない。だからファイマン首相や国民党は「早期議会選挙の実施」を考えていない。

財務相は「わが国の財政をアテネ型にするか、それともドイツ型にするかの問題が問われている」という。ドイツ型の節約財政を実施してきた財務相は国民党内の支持を得られず、今回、辞任に追い込まれたわけだ。「節約政策だけでは国民経済を発展させることは難しい」ことは事実だが、「税制の改革の時期を間違えれば、財政悪化をもたらす」といった恐れは払しょくできない。

今年末から来年にかけて州議会選挙が控えている。有権者を獲得するために与野党は受けのいい所得税の引き下げなどの税改革をアピールすることは間違いない。財務相は記者会見で「私は未来の世代に重荷となる財政政策はできない」とその信念を繰り返していた。国民党から抜擢される新財務相がどのような政策を実施するか、注目される。


編集部より:このブログは「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2014年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。