原発が止まった原発の街「柏崎」の現状 --- 宇佐美 典也

アゴラ

先日とある人のご案内で久しぶりに柏崎に行ってきました。柏崎刈羽原発を見学に行った後に諸々観光地ご案内して、帰ってきたのですが、彼の地の厳しい現状を改めて感じました。

まずは柏崎市の現状についてなのですが、近年なかなか厳しい状況が続いておりまして、1995年の10.1万人をピークに人口は減り続けており2014年7月現在では87928人となっております。タダでさえ苦境が会ったところに柏崎刈羽原発の稼働停止も重なり、人口減少のペースがやや加速しています。では柏崎の産業が原発に依存しているかというと決してそうでは無く、ブルボン(菓子)やリケン(自動車部品)といった全国ブランドの会社が今でも柏崎で活躍しています。原発は稼働してしまうと基本的にはスタンドアローンで稼働し続けるので、直接の恩恵を受けているのは実際に雇用されている職員や、地元の建設・メンテナンスメーカーなど一部に限られています。

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柏崎における原発の恩恵の多くは間接的なもので <1. 原発立地 2. 立地対策交付金、使用済核燃料税、固定資産税、法人市民税などの税収増 3. 市民に還元>という具合になっています。では柏崎の税収のいかほどが原発がらみなのかということで同市の平成26年度の予算を見てみますと、歳入の484億円のうち、原発関連交付金が26.0億円、使用済核燃料税が5.7億円、その他市の固定資産税90億円の内の2/3程度(50億~60億円程度)は東電からのもの思われ、総計で毎年合計で80億円~90億円程度と思われます。そう考えると市税156億円の内の約半分、歳入484億円のうちの約15%弱が原発からの収入ということになります。こうみると「原発無しでも柏崎はやっていける」というのは市の財務面では無茶な主張ではありますが、市民の生活面では十分可能な話なのかもしれません。実際一般の柏崎の市民の方が「原発再稼働に必死」と感じたことはありません。

なお固定資産税は「原発がいつか稼働する見込み」である限りは、赤字でも当面は入ってくるので柏崎刈羽原発の地震・津波対策が進んだ結果固定資産税は皮肉にも近年は増収しています。本来ならこれにプラスα(5億円~10億円)の法人市民税が入ることになるわけですが、累損が膨らんだ東電からは当面法人税は期待できないため、短期的には柏崎市に取って原発が稼働しようがしまいが税収は変わらないということになりますが、やはり長期的には稼働してもらわないと100億円近い税収減に見舞われることになります。

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では柏崎原発ではどのような津波対策が進んでいるのか、ということなのですが、東日本大震災の津波を参考に海抜15メートルまでを想定した防潮堤がつくられ、同じ基準で原子炉建屋、タービン建屋の水密化工事が行われました。なお先日の政府発表によると、柏崎刈羽原発周辺の最高の津波の高さは3メートル40センチなので、(http://www3.nhk.or.jp/news/html/20140826/k10014101941000.html)相当なオーバースペックであることはまちがいありません。

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この防潮堤を越える津波が来るとは到底想定しがたいのですが、それでも隕石が日本海に落下するなどして、この防潮堤を越える津波が来たとしても、海抜30メートルの位置に全交流電源損失に備えて発電車、電源車、消防車などが待機しており、緊急時用の電源ケーブルも常設されています。海抜30メートルまでの津波ならば持ちこたえられる備えがあるということでしょう。

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また一時的に注水が途切れて空焚き状態で水素が発生してしまった場合にも、触媒で水素を酸素と再反応させて水素爆発を防止する装置や、放射性物質フィルター付きのベントの設置が進められておりまして、放射性物質が拡散することは無いようになっています。こちらもこちらでハード上の整備は進んでいるというところです。

だいたいこうした対策に震災以降2700億円が投じられたようで問題は「こうした膨大なハードを使いこなせるのか」ということなのですが、原発の職員の方曰く、順次訓練を進めているが「まだ完璧ではない」という現状のようでした。説明してくださった職員の方もここまできたら世界最高の災害対策体制を実現したいようで、使命感に満ちた目をされておりました。良く脱原発派の人達が「福島を忘れるな」ということをおっしゃっていらっしゃいますが、多分一番忘れてないのは再稼働に向けて粛々と準備をする東電職員の方々だと思います。福島の事故がこの壮大な堤防を生んだのですから。

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ではでは今回はこの辺で。


編集部より:このブログは「宇佐美典也のブログ」2014年8月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は宇佐美典也のブログをご覧ください。