今まで何度も書いたが、日本語の読めないEconomist誌のような外人にはむずかしいかもしれないので、わかりやすく整理しよう。実は朝日新聞は、今回の検証記事で事実を9割以上、認めている。それをわかりにくくごまかしているだけだ。
「強制連行 自由を奪われた強制性あった」という記事は、見出しだけ見ると「強制連行はあった」と思う読者が多いだろう。半分以上の読者は本文を読まないので、朝日はそういう効果をねらっているが、結論はこうなっているのだ。
日本の植民地だった朝鮮や台湾では、軍の意向を受けた業者が「良い仕事がある」などとだまして多くの女性を集めることができ、軍などが組織的に人さらいのように連行した資料は見つかっていません。
これは秦郁彦氏も吉見義明氏も一致する歴史的事実である。吉見氏も「官憲による奴隷狩りのような連行を裏づける公文書は、今のところ出ていない」(朝鮮時報1997年2月27日)と認め、それ以降、見解を変えていない。朝日の結論も、これに従ったものだ。ところが、朝日はこの記事で「強制連行は使う人によって定義に幅がある」と書いている。
慰安婦の強制連行の定義も、「官憲の職権を発動した『慰安婦狩り』ないし『ひとさらい』的連行」に限定する見解と、「軍または総督府が選定した業者が、略取、誘拐や人身売買により連行」した場合も含むという考え方が研究者の間で今も対立する状況が続いている。
これは誤りだ。吉見氏でさえ「業者が、略取、誘拐や人身売買により連行」したケースを強制連行とは呼んでいない。彼はこれを強制性と呼んでいるのだ。彼は植民地で行なわれた売春は「自由意思でその道を選んだようにみえるときでもすべて強制の結果」と定義するのだから、慰安婦はすべて強制だ。これはトートロジーである。
朝日はなぜ吉田証言の記事を取り消し、女子挺身隊は「誤用」だと認めたのに、強制連行については否定したようなしてないような矛盾した記事を書くのだろうか。それはこれを誤報(あるいは捏造)と認めると、「強制連行」を含む過去の1000本以上の記事を取り消すはめになり、社長の辞任が避けられないからだ。
しかし現場の記者はまじめに検証したから、事実は特集記事にほとんど書かれている。外人にもわかるように簡単にまとめると、経緯はこういうことだ。
- もともと韓国政府は男性労働者の強制連行に個人補償を求めていたが、これと慰安婦は別の問題だった。
- 1991年8月に植村記者が、挺対協の「キーセンに身売り」というテープを聞いたのに「女子挺身隊として強制連行された」と書いた。
- 同年12月に訴状でも「身売りした」と書かれていたのに、植村記者は92年1月に「軍関与」の記事と混同するように「挺身隊の名で強制連行」という解説をつけた。
- 宮沢首相が韓国政府に謝罪したため、韓国が慰安婦の強制連行に個人補償を求めて大混乱になった。
- 河野談話で「強制」を認めたため、日本政府が強制連行を認めたと誤解された。
つまり「慰安婦の強制連行」は、植村記者の捏造した話だ。人身売買などの民間の違法行為はあったが、軍や官憲による慰安婦の強制連行はなかった。これが朝日新聞も認めた歴史的事実である。
朝日の幹部は、おそらく92年4月の『文藝春秋』で誤報を指摘されて気づいたはずだ。検証記事でも「朝日だけが河野談話で『強制連行』と書かなかった」と明かしているが、その後も「強制連行」を「強制性」にすり替えて個人補償を求めるキャンペーンを張った。誰が植村記者の嘘に気づいたのか。なぜ気づいたとき訂正しなかったのか。国会では、当時の幹部の責任も追及してほしい。