日本企業、アメリカ企業、中国企業…といった会社の国籍は何で判断しているのでしょうか? その会社が育った国でしょうか? 従業員の色でしょうか? 税金を払っている国でしょうか?
学術的には本店所在地、会社の支配関係など様々な主義主張があり、完全なる定義はないように見受けられます。
会社の資本をどこの国で集めたか、これが私の考える会社の国籍です。
例えばスターバックスはどこの国の会社といえばほとんどの人はアメリカと答えるはずです。シアトルから生まれたコーヒー屋というよりアメリカで資本を集め、世界制覇した巨大チェーンであります。日本にスタバの子会社はありますが、それはアメリカの親との関係があり親戚のようなものであります。つまり、血統はアメリカ。
ではセブンイレブン。これは日本の会社です。アメリカのセブンも日本の会社です。1991年にアメリカの会社をイトーヨーカドーが買収して親子逆転現象が起きています。
iPhoneを作っている鴻海(フォックスコン)はどうでしょうか? 中国本土に100万人近い従業員を抱える世界最大のEMS企業が中国企業だと思っている人は中国からもあまり聞こえてきません。なぜなら台湾資本の会社だからです。
つまり、親会社の資本がどこを通じて集めたかでその会社の国籍が判断されることが多いのです。
高度成長期の頃、アメリカが日本企業をバッシングしました。あるいは尖閣問題で中国において日本企業がバッシングされました。これもその資本が国籍判断であったのですが、それは「民族という色のついたお金」で見られていたとも言えます。これはアメリカのお金、これは日本のお金…という具合です。
ちなみに経理の世界ではお金に色はつきません。これはこのプロジェクトのお金とかこれはこれに支払うお金というのは表現としては使いますが、それは予算や配分の問題であり、経理の世界ではお金は一つしかありません。現金1、現金2などありませんし、A銀行とB銀行のお金は同じ預金という扱いであります。
では、1兆2000億円もの巨費を投じて経営統合されるアメリカのバーガーキングとカナダのティムホートンズは誰が誰を買収するのでしょうか? これは実はかなり微妙でバーガーキングをアメリカの企業を見なすのだろうと思いますが、バーガーキングそのものはブラジルの投資会社、3Gキャピタル社が支配しています。この投資会社は非公開投資企業でそのお金は更に違うところから集まっています。つまりバーガーキングの国籍はよくわからないのであります。ただ、ほとんどのアメリカ人は「バーガーキングはアメリカの会社」と思っているはずです。理由はアメリカで集められた資本ということでしょうか?
韓国の主要な銀行は誰が持っているか、といえば韓国ではありません。ほとんどすべてが外資に牛耳られています。韓国金融が弱いというのは自国の安定基盤の金融機関がほとんどないことがその原因の一つとなっています。
資本を入れたり買収したりする会社は基本的に2種類あります。実業の会社が社業を拡大するために買収するケース。もう一つはファンドと称する巨額のお金を集めて色のつかないお金が大企業を買収するケースであります。例えばサントリーがアメリカのジムビームを買収するのは前者の例であり、買収を通じて社員を派遣し、ノウハウを双方向で融通し合い、一体の会社として成長させます。
ところがファンドが買収する場合は様相がかなり変わります。理由はファンドは基本的に経営するノウハウを持ちません。そこに投資し、期待リターンを得ることを主としています。ファンドが口出しするのはそのリターンを最大限にするために無理無駄をなくすことです。つまり、短期的視野であります。
例えばホテルは誰が所有しているか、といえば今やホテル運営会社が所有するケースはかなり少なくなってきています。主流は不動産所有会社。その会社がプロのホテル運営会社に運営委託するのです。では不動産所有会社は誰が所有しているのか、といえばこれは正直誰だかさっぱりわかりません。なぜなら資金が巨額化している上にパッケージディールと称する「一山いくら」のパタンもあり、まさにファンドのようなお金にしか興味がない者にとって絶好のターゲットであるのです。
資本主義が過度に進んでくると資本の力が勝ることになります。その資本の額は実業の会社では到底太刀打ちできない世界が広がりつつあるのです。日本の不動産はREITが所有するケースが大きく伸びていますが、REITの国籍は誰か、といえば答えられそうで案外、難しいものです。
会社の国籍はグローバル化した社会の中で民族の色がどんどん薄れているということでもあるのでしょう。
今日はこのぐらいにしておきましょう。
編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年8月29日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。