菅官房長官は、きょうの記者会見で、国連人権委員会が1996年に出したクマラスワミ報告について「わが国の基本的立場や取り組みを踏まえていないことは遺憾だ」とコメントした。この報告書はとても国連の出したものとは思えない、出来の悪い学生レポートのようなものだ。
ここには多くの被害証言なるものが引用されるが、そのほとんどが出所不明の2次資料で、資料価値がない。たとえば
16.最終的には、日本人は暴力を使ったり公然と強要して、高まる軍の需要を満たす女性を集めることができたのである。非常に多くの女性被害者が、娘が連行されるのを阻止しようとした家族に暴力が加えられたと語り、時には無理矢理連れて行かれる前に両親の目の前で兵隊にレイプされたと言う。ヨ・ポクシルについての調査によれば、彼女も多くの少女と同様に家で捕らえられ、娘を取られまいと抵抗した父親が暴行されたあげく連れ出されたという。(2)
ここだけを読むと委員会が元慰安婦の証言を聞いて書いたようにみえるが、この注(2)というのは、G. Hicks “Comfort Women”という一般書である。証拠をあげている「歴史的背景」には11の注がついているが、そのうち(1)から(9)までがこの本で、あとが吉田の『私の戦争犯罪』だ。つまりクマラスワミ報告書は、たった2冊の一般書の孫引きで書かれているのだ。
このHicksという人物は香港に住んでいた経済評論家で、日本語も韓国語も読めない。この本の謝辞では「韓国から英訳して送ってもらった資料をもとにした」と書いている。つまりクマラスワミ報告書は、元慰安婦の証言を韓国の活動家が(特定の意図をもって)英訳した伝聞資料を切り貼りしたものにすぎない。
Hicksの本には証拠能力がないので、吉田証言が唯一の1次資料だったが、それも今回の朝日の報道で崩れてしまった。したがって報告書の信憑性はゼロである。クマラスワミは記者会見で「修正の必要ない」といったそうだが、その通りだ。この報告書は修正するのではなく、朝日の記事と同じく全面的に取り消すしかない。
外務省は当時、これに対して反論書を出そうとしたが、当時の村山内閣が阻止したとみられている。そこにはこう書かれていた。
特別報告者は、旧日本軍の慰安所に関する歴史的経緯や、いわゆる従軍慰安婦の募集、慰安所における生活等について記述しているが、ほぼ全面的に、日本政府に批判的な立場のG. Hicks氏の著書から、特別報告者の結論を導くのに都合の良い部分のみを抜粋して引用しているに過ぎない。一般刊行物に依拠する場合、十分な裏付け調査を行わなければならないことは職責上当然のことだが検証が行われた形跡がない。その上主観的な誇張を加えている。無責任かつ予断に満ちた付属文書は調査と呼ぶに値しない。
朝日新聞は、彼らが16回も報道し続けた吉田証言が否定されても「核心は変わらず」と逃げているが、吉田証言はこのようにでたらめな報告書の論拠となり、国際的に大きな影響を与えたのだ。外務省はあらためて反論書を出し、国連にこの報告書の撤回を求めるべきだ。
追記:クマラスワミ委員会は、北朝鮮などの(自称)元慰安婦にヒアリングをしているが、これは反対尋問なしの「原告側」の主張であり、それを裏づける証拠は何もない。