業界トップ、必ずしも勝者ならず --- 岡本 裕明

アゴラ

この3年間、トヨタ自動車が世界で最も販売台数の多い自動車メーカーであることに一種の王者の貫禄を感じました。あるいは世界で市場シェア一位の日本製部品や製品が数多く並べられ、一番であることに日本企業の強さを感じたものです。

数年前、国内企業の市場シェアにおいて1番かせいぜい2番でなければだめであとは負け組とされました。負け組の意味は単純に赤字でどれだけ市場シェアを追求し価格攻勢をかけても一番にはなれないという事だったかと思います。その端的な例を上げれば日本の航空会社でありましょう。全日空と日航ががっちり固めるその市場に多数の新興航空会社がチャレンジしましたが、そのほとんどは敗退しました。そして、最後に残ったスカイマーク社もエアバス社との取引関係において自滅しつつある状態であります。ただ、ここにきて「これでよいのか?」という異論が出始めたことも事実であります。


さて、その王者のトヨタ自動車は私の予想では、1、2年中に販売台数においては2位、ないし3位に転落する可能性もあり得るとみています。理由は同社が3年間、工場を新設しないという事を発表しているからで2016年あたりがそのバトンタッチの時期ではないかとみています。一方のトヨタの目論見とは「台数ではなく、経営や品質。ひいては利益率の向上」という事のようです。

ライバルフォルクスワーゲン社が台数において猛追をかけていましたが、同社の利益率はガタガタになっています。乗用車部門は2011年に4%程度の利益率があったものの1~6月で2.1%まで低下しています。理由は部品共有化のMQBシステムがうまくワークしていないこととされています。そのため、ヴィンター・コーン社長は台数を追うより利益という経営の方向転換を指示しています。GMについてもリコール問題で足元が落ち着かず、今は台数を追うよりまずは経営の基盤を改めて立て直す方ことを求められています。つまり、自動車トップ3各社は今は一番を狙う時期ではないと考えています。それゆえに肉薄する三社の販売台数においては今後1、2年はどこが一位になってもおかしくないし、それに対してライバル各社は目くじらを立てないだろうという流れであります。

「一番にならなくてもいい」は自動車業界だけではありません。本日の日経電子版には東芝が次世代半導体に関して田中久雄社長が、「シェア首位を追うような経営をする気はない」と発言しています。東芝は半導体に関してサムスンと長年のライバル関係がありました。特にフラッシュメモリーについては小説にしても面白いぐらいの話であります。その東芝が一番ではなく利益を追うという姿勢に転換したのは半導体という市場が非常に読みづらく、一番を取ることの意味がさほどないということを意味しているのかもしれません。

それこそ数年前、シャープが一本足打法で液晶を制覇した世界はその後の経営不振で一気にその利益や評価を吐き出してしまいました。では、太陽光パネルはどうでしょうか? 毎年、ランキングはクルクル変わり1位の会社は一度も安定したことはありませんでした。結局誰が勝者だったかといえば誰もいなかったような気もします。でもあの頃、皆、市場シェアを追っていたのです。

折しも最近聞こえてきたのはROE。自己資本利益率と称するこの経営指標に再び注目が集まっています。それは欧米のトップグループと比べこのROEが日本企業は一応に低いことが指摘されているからです。せいぜい7%程度しかないROEを二桁に持って行くためには経営そのものを見直さねばなりません。なぜ、そうしなくてはならないかといえば今や企業を評価するのは株式市場を通じた市場の評価、更には外国のファンドなどが経営に口出ししやすくなっていることが挙げられるのでしょう。

そういう意味では「経営のうねり」とも言えそうです。長期的に見ればここでしっかり足場を固めておくことは企業にとって将来再び、攻めに出やすいともいえましょう。

ビジネスをしている人はこの微妙な変化の風を感じ、今後数年間のビジネスプランの再考に役立てなくてはいけないのでしょうね。

今日はこのぐらいにしておきましょう。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2014年9月10日の記事より転載させていただきました。快く転載を許可してくださった岡本氏に感謝いたします。オリジナル原稿を読みたい方は外から見る日本、見られる日本人をご覧ください。