朝日新聞の「贖罪史観」は営業と出世の道具

池田 信夫

朝日新聞のデータベースを検索すると、「慰安婦」は7419件、「慰安婦 強制連行」でも1046件も出てくる。しかも大阪本社に集中しているのが特徴だ。大阪には在日が多いので、彼らに同情する記事を書くことがセールスの武器になった。拡販の対象は専業主婦が多いから、北畠清泰(大阪本社論説委員)が中心になった「女たちの太平洋戦争」シリーズは、部数拡大に大きく貢献しただろう。


その記事は、戦争のとき子供だった女性の(真偽不明の)手紙で構成されている。たとえば1991年7月24日の「2度まで売られた私」という記事は、こんな調子だ。

それならもう一度、父や弟のために働いて孝行を尽くして上げようと思いました。込み上げる涙を隠し、沖縄の女性21人と一緒にサイパン島に渡りました。昭和14年(1939)4月3日の出来ごとです。行く先はサトウキビ会社と聞いていたのに、行って見れば軍の慰安婦をやれ、ということなのです。

この原因は軍の強制ではなく、貧しさである。業者がだまして軍の慰安婦にしたケースはあっただろうが、「広義の強制」の原因は軍ではなく、業者に負った借金なのだ。当時も人身売買は違法だったから、業者の債権を政府は保護していない。

きのうも片山杜秀氏と話したことだが、「悪いのはA級戦犯と軍だけで、国民は被害者だった」という図式は、東京裁判で戦争責任に法的決着をつけるために連合国のつくったフィクションであり、日米戦争の原因はいまだに研究者にも通説がないほど複雑だ。それを朝日新聞は「侵略戦争の加害者と被害者」という勧善懲悪の図式に整理して「女性の人権」や「アジアとの和解」などの美しいスローガンでごまかしてきた。

こんなキャンペーンが30年以上も続けられた背景には、大阪読売やローカル紙との競争が激しい大阪の特殊事情がある。「売れる商品」をつくれば出世するのが大阪だ。どうせ昔の話だから、多少の嘘があってもわからない。名誉を毀損されるのは絶対悪の日本軍だから、訴えられる心配もない。

もう一つの朝日に固有の要因として、出世主義があると思う。今回のデマ報道の中心になった北畠清泰(大阪本社企画報道室長→論説副主幹)、清田治史(外報部長→東京本社編集局次長→西部本社代表)、市川速水(ソウル支局長→外報部長→中国総局長→報道局長)などのキャリアはよく似ていて、社会部とアジアの海外支局を往復している。

もう一つの共通点は(植村隆を除いて)みんな出世していることだ。前にも書いたように、朝日は伝統的に社論を統一する「民主集中制」だ。慰安婦や原発の記事は、その専門デスクが検閲する。そして社論にそった記事を書く記者しか出世できない。だから軍を悪玉にして「女性の人権」をうたい上げる記事を量産することが、出世の早道になるのだ。

アジアに対して日本軍の犯罪を永遠に謝罪しなければならないという贖罪史観は、加害者だった朝日新聞を免罪する上でも重要だった。それは朝日の社論として受け継がれ、政治部では集団的自衛権などのヒステリックな記事を生み出し、社会部では慰安婦デマを生み出した。これに疑問をもつ記者は傍流になり、放射能デマなど勧善懲悪のおもしろい記事を書く記者が出世する。

その意味で今回の問題は、終戦直後から続いてきた朝日新聞の贖罪史観を抜本的に見直すいいチャンスだ。近代の総力戦は、軍だけではできない。それに予算を支出する官僚機構と、その財源となる経済力と、戦地におもむく兵士に「大東亜の理想」を植えつけるマスコミが協力したから、あの戦争は起こったのだ。

木村社長は「これからも従来の主張を続けていく」と開き直っているが、市川報道局長は「強制連行はなかった」と明言している。朝日新聞が7000本以上の慰安婦の記事をすべて取り消し、慰安婦報道が徹頭徹尾でたらめだったことを認めるまで、この問題は終わらない。